恋する娘はストレート

 お熊はしかたなく結婚を承知するものの、忠七に連れて逃げてほしいというのが本心。そこで閃いてしまうのが新三の悪知恵。

 新三にそそのかされたふたりは駆け落ちを決意し、お熊だけ新三の家へ先に行くことになるのですが……。何やらよくない展開となりそうな気配。

「大人だったらここでいろいろな可能性を考えるでしょうけれど、お熊はお嬢さん育ちでおっとりした女性です。とにかく忠七のことしか頭にありません。恋に対してストレートな女性というのは、歌舞伎にはけっこうよく登場するんです」

 12月に梅枝さんが演じる『神霊矢口渡』のお舟もそんな女性。ですが、そのお話は次回にお届けいたします。

自分なりのポイントを見つけて

 駆け落ち実行から物語は急展開し、主人公である新三の見せ場が続きます。耳に心地よい七五調の名せりふ、威勢のいい小悪党ぶり、老獪な大家さんとの爆笑もののやりとり。そのどれもが注目です。

 さらに材木問屋とはまた違った長屋の暮らしぶりや季節感が醸し出す風情、場面を盛り上げる音楽など、着目したいポイントはたくさんあるのです。

「ですから観るたびにいろいろな発見ができます。そして面白いと思うポイントは人それれぞれ。自分なりに興味がわくポイントを見つけると、そこからいろいろな楽しみが広がっていくのではないでしょうか」

 歌舞伎観劇デビューに向けての、梅枝さんからのアドバイスでした。

2019.11.23(土)
文=清水まり
撮影=白澤 正