いつの世にも存在し得る
若者の狂気を描く

 シネマ歌舞伎『女殺油地獄』は、2018年7月、大阪松竹座での「十代目松本幸四郎襲名披露公演」で上演された舞台をもとにつくられた作品だ。

 映像化に際して幸四郎さんはある条件を提示したという。

 「映像だからこそできるもの、単純にいえば舞台より面白い作品をつくっていただきたいと申し上げました」

 シンプルな舞台中継では決してない、映像作品としてのクオリティの追求。それは「舞台は記録できないもの。演劇の感動は生でしか味わえない」という思いの裏返しでもある。

 では、舞台上で展開される物語とは? 簡略に記すと次のようになる。

 放蕩の限りを尽くしている油屋の息子・与兵衛が借金の返済に困り、日ごろから親切にしてくれる同業者の人妻・お吉にお金を借りようとするが受け入れられず、結果として強盗殺人を犯してしまうという話である。

 「与兵衛はすべてに対して真剣に生きた人。遊んでいる時も悪いことをしている時も、嘘をつく時だって真剣。計画性がなく本能のままに行動しています。それは人としていけないことではあるけれど、そんなふうに生きられたらという願望は誰しもあると思います。そこに与兵衛という人物の魅力があるのだと思います」

 遊び仲間とつるんでは日々を愉快に過ごし、仕事はいいかげん、言動は感情のおもむくまま、家庭内暴力も日常茶飯事という、いつの世にも存在し得る不良青年。それが与兵衛だ。

 その内面には若者特有の鬱屈と天衣無縫の陽気さとが混在し、幸四郎さんの一挙手一投足にそれが滲み出る。

2019.10.28(月)
文=清水まり
撮影=白澤 正