誠意と熱意で状況や環境も
動かせると思うから
いま、歌舞伎界の新たなプリンスとしてバラエティ番組などでも注目を集めている尾上右近さん。街で声を掛けられる機会が増え、歌舞伎の舞台でも客席の反応がこれまでとは変わってきていることを実感する日々。
「知ってもらえていること、僕が出て喜んでいただけているということがとても嬉しい」と話す。
「僕は流れに身を任せていただけで、きっかけは外からいただいたものですけどね。ただ、流れが来た時にちゃんと乗れるよう、つねに自分に蓄え続けておこうと意識しています」
その右近さんが、強い意識で流れを引き寄せたのが歌舞伎俳優の道だ。父親は歌舞伎を三味線と唄による伴奏音楽で支える清元(きよもと)の家元だったが、3歳の時に名優で曽祖父の六代目尾上菊五郎の舞台映像に魅せられ、俳優一筋に。
それが、2018年1月に七代目清元栄寿太夫を襲名した。父に請われたとはいえ、俳優と清元のふたつの道を同時に歩むという異例の決断を自らに課した。
「家元の息子ですし、自分がこの歳でプロとして入ることで、少なからず清元の世界に影響を及ぼすわけです。役者は好きでやっていて自分の問題でしたけれど、多くの方の思いに関わるだけに責任を感じます」
それだけの覚悟を決めたということ。右近さんは「正直動山鬼」という中国故事を例に取って語る。
「意味は、心が正しく素直であれば、山の神をも感動させられるというもの。自分の誠意と熱意を絶やさず持ち続けることで、状況や環境を大きく動かすことができると僕は信じているんです」
そのことを「身を以て大きく実感できる」経験もあった。自主公演として行っている『研の會(かい)』だ。
「そもそも第1回は、曽祖父のやった『鏡獅子』を自分も早くやりたくて始めたもので、それさえやれればいいくらいの気持ちでした。
でも、回を重ねなければ意味がないと先輩方に言われ続けてきて、今年第5回を数え、楽しみにしてくださるお客様も増えています。
人に熱意が伝わることで、取り巻く状況が変わってくるのを感じますし、熱意を持たなければお客様に失礼だなと、あらためて感じるようになりました」
新作ほど古典の力が試される
そんな右近さんの新たな挑戦が、また始まる。アニメ界の巨匠・宮崎駿さんの大作漫画『風の谷のナウシカ』を歌舞伎舞台化する試みに、俳優として出演する。
過去には、スーパー歌舞伎II『ワンピース』でルフィ役を勤め大評判を得たが、「新作の時ほど、古典歌舞伎で培った力が試されるし、発揮される」という。
「新作の場合、古典の技術の上に新しいものを伝えたいという精一杯の熱意が加わることで、お客様にカタルシスをもたらすことができると思っています。
技術と手法という、しっかりとした骨の上に熱意という筋肉が発達している歌舞伎俳優が一番強い。そこを目指したいです」
尾上右近(おのえ うこん)
1992年生まれ。父は清元宗家七代目清元延寿太夫。7歳の時に歌舞伎座で初舞台を踏み、七代目尾上菊五郎の元で修行を重ね、12歳で二代目尾上右近を襲名。
数々の古典作品のほか、スーパー歌舞伎II『ワンピース』では主役のルフィ役を勤めて話題に。2018年1月に清元栄寿太夫を襲名し、11月に歌舞伎座で清元で初お目見得も果たした。
舞台 新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』
尾上菊之助さんがナウシカ、尾上右近さんはアスベルとオーマの精を演じる。昼と夜の部通しで原作全7巻を上演。演出はG2。2019年12月6日(金)~25日(水)、新橋演舞場。
●問い合わせ
電話番号 0570-000-489(チケットホン松竹)
https://www.nausicaa-kabuki.com/
Column
C&C インタビュー
今月のカルチャー最前線。一押しの映画や舞台などに登場する俳優にお話を聞いています。
2019.11.14(木)
文=望月リサ
撮影=榎本麻美
スタイリング=三島和也(Tatanca)
ヘア&メイクアップ=白石義人(ima.)