自分よりも“長生きする作品”を作っていけたら

 2012年に出演した映画『僕等がいた』以来、吉高由里子さんが「ずっと苦手意識がある」と語る純愛ラブストーリーに再び挑戦する。その作品とは、映画『きみの瞳が問いかけている』。

「もちろん恥ずかしさや照れ臭さもありますけど、何より自分が考える恋愛観と違っていたり、セリフに共感できなかったりすると、急に冷めてしまう自分がいて。その違和感が他のジャンルの作品に比べて大きかったので、ずっと恋愛ものを苦手に思っていたんです」

 それでも吉高さんが出演を決めたのには、こんな理由がある。

「原案となった韓国映画『ただ君だけ』を観た私のマネージャーが、このリメイクをぜひ吉高にやらせたいとゼロから進めていった企画だったんです。それが彼の夢だったみたいなので、一緒に叶えられることがうれしくて。

 でも夢が叶ったと同時に、彼は私の担当から一度離れてしまったんです。結果的に、今はまた戻ってきてくれたので、まるでプロミスリングみたいですよね(笑)」

 物語の中で吉高さんが演じるのは、交通事故で視力を失った柏木明香里。役作りのため、障害者生活支援センターへ取材に出向いたという。

「料理やメイクの仕方なんかを教えていただきました。お話を伺ったのも明香里と同じ、事故で失明された方だったんですけど、本当に明香里のように気丈で明るいんですよ。その姿にこちらが胸を打たれて泣きそうになってしまって。

 この作品を通して、そういう方々と出会えた経験は大きな宝物になったと思います」

休養を経て訪れた変化とは

 14年のキャリアの中で、吉高さんに大きな転機が訪れたのは6年前。

「朝ドラ『花子とアン』(14)が終わったら、少し休みたいなと思っていたんです。自分の顔や声をモニターで見たり聞いたりすることに疲れてしまった時期があって。

 もともと容姿に自信があるわけでもなかったので、夢を持って頑張っているキラキラした人たちに立ち向かえないというか、そんな自分がここにいることが申し訳なく感じてきて。それを事務所に伝えたら、“しばらく休んでおいで”と言ってくれたんです」

 それから吉高さんは、約2年に及ぶ充電期間に入る。その間、海外を回って演劇に触れたり、なんてことのない時間を過ごすことで、さまざまな心境の変化があったという。

「普通、2年も休ませてくれる会社なんてないし、それでも待っていてくれる会社や人に出会えただけで私は幸せだと感謝しています。理想の自分になれないのは当たり前のことです。そんな自分を許してあげようと、少しずつ思えるようになりました。

 今は以前と違い、一つ一つの作品にじっくり向き合う時間をいただけているので充実感も大きい。この先もいい人たちと、自分より長生きする作品を作っていけたらいいなと思っています」

吉高由里子(よしたか ゆりこ)

1988年生まれ、東京都出身。2006年にスクリーンデビュー。映画『蛇にピアス』(08)で日本アカデミー賞やブルーリボン賞など、数々の新人賞を受賞し、ブレイク。近年の出演映画は『ユリゴコロ』(17)、『検察側の罪人』(18)、ドラマは「わたし、定時で帰ります。」(19)、「知らなくていいコト」(20)など。10月7日放送予定のスペシャルドラマ「東京タラレバ娘2020」(NTV)に出演。

映画『きみの瞳が問いかけている』

視力を失くした明香里と、罪を犯し夢を失ったキックボクサーの塁(横浜流星)。二人は恋に落ちるが、過酷な運命によって引き裂かれていく。主題歌はBTS。10月23日全国公開。
©2020「きみの瞳が問いかけている」製作委員会
©2020 Gaga Corporation / AMUSE Inc. / Lawson Entertainment,Inc.
https://gaga.ne.jp/kiminome/

※掲載情報は9月23日時点のものです。新型コロナ感染拡大の状況により変更の可能性があります。最新情報は公式サイトなどをご確認ください。

Column

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今月のカルチャー最前線。一押しの映画や舞台などに登場する俳優にお話を聞いています。

2020.10.14(水)
文=菅野綾子
撮影=榎本麻美
スタイリング=有本祐輔(7回の裏)
ヘア&メイクアップ=RYO

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