面白いことをやりたい、という欲求だけで作った

 何気ない日常のなかに、笑いのタネを見つける天才。バカリズムさんがOLになりすまし、こっそり書いていたブログが書籍化され、自らが主演でドラマになったのが「架空OL日記」。

「OLさんって、同じ毎日を繰り返しているように見えて、ちょっとした楽しみを発見するのがうまいんです。自分の生活と真逆なところが、羨ましくて。バーチャルなOLさんの世界に、僕がゲーム感覚で入っていくイメージがこの作品です」

 ドラマを手がけた住田崇監督の熱い思いで実現したのが、現在公開中の映画版。夏帆さん、臼田あさ美さんといった、主要5人の銀行OLメンバーは変わらず。更衣室でのグチ大会をはじめ、テンポのいい会話のなかに、細やかなバカリズム視点がちりばめられている。

「今回は銀行に勤めている方に話を聞かせていただき、ヒントにした部分もあります。ごはんはどこに食べに行くんですかとか、たわいもない話をしました。意外だったのが、皆さんしょっちゅう同僚たちとごはんに行くわけではないんですね。あと、現実はもう少し人間関係がギスギスしてました(笑)」

趣味で書いたからこそ純粋

 バカリズムさんは数多くのレギュラー番組を抱えるほか、お笑いライブはチケットが即完売という人気。基盤となるネタ作りは、自宅近くに借りている作業場で行っている。

「ネタはパソコンの前に座って、ひたすら考えるだけです。日常生活の話だったら、自分の日々の生活から回想して見つけていく。行き詰まることは何度もありますけど、無理だと思っても、とりあえず何でもいいから書いてみる。書いたことが刺激になって新しいものが生まれることもあります」

 お笑いのネタが「創作」とすれば、「架空OL日記」は完全に「趣味」だという。

「誰かに求められたのではなく、面白いことをやりたいという〝欲求〟だけで作った一番純粋な作品です。だからこそ、本やドラマになった時に、自分の世界観を壊されたくないんです。壊されるなら、やる必要はなく、本業のお笑いをがんばればいいという強みがありました」

 実際に映画制作のなかで、事件が起こるなどの展開が必要、という声が少なからず上がっていた。

「そのたびに、僕が抑えていました。淡々とした世界を大画面で観る面白さを含めての映画でもあるから」

 彼が作りあげた理想の職場の空気は、観ているうちに心地よく感じる。

「僕が働くならこういう所がいいなと思いながら書きました。メンバーみんなは意外と空気が読めるし根がやさしい。押し付けがましくない、平和な職場です。最近、気持ちが荒んでいたり、疲れてたりする人にちょうどいいんじゃないかな」

 メイクして制服姿のバカリズムさんのOLっぷりも、また心の癒やしに。

バカリズム(ばかりずむ)

1975年生まれ、福岡県出身。本名は升野英知。95年にお笑いコンビ「バカリズム」でデビューし、2005年よりひとりで活動。TV番組で活躍するほか単独ライブでも人気を博す。17年に原作・脚本・主演を務めたドラマ「架空OL日記」でギャラクシー賞、第36回向田邦子賞を受賞する。

映画『架空OL日記』

私(バカリズム)、真紀ちゃん(夏帆)、小峰さま(臼田あさ美)など、OLたちの日常を描く。更衣室のヒーターが壊れた、上司がムカつくなど些細な事件が満載。全国公開中 配給:ポニーキャニオン/読売テレビ
©2020『架空 OL 日記』製作委員会
https://www.kaku-ol.jp/

Column

C&C インタビュー

今月のカルチャー最前線。一押しの映画や舞台などに登場する俳優にお話を聞いています。

2020.03.09(月)
撮影=榎本麻美
スタイリング=高橋めぐみ
ヘア&メイクアップ=有馬妙美

CREA 2020年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

ポジティブな自分になれるもの。

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定価820円

なんでもないことでイライラ、頑張っているのに空回り。そんな誰にでもある心のモヤモヤを、日々の美容の積み重ねで解消できればと思い、様々な専門家に取材しています。肌と心と体は密接に繋がっているから、スキンケアのテクスチャーが前向きな気分に変えてくれたり、腸を整えることでポジティブになれたりするものです。