多くの人に愛される作品を作りたかった
『アイスと雨音』や、『君が君で君だ』など、エッジの効いた作品を多く生み出してきた松居大悟監督。
ところが新作映画『#ハンド全力』では、熊本地震をきっかけにハンドボールをやめた高校生を、愛ある優しい視点で描いているのが新鮮。
「これまでは“自分らしさを出さねば”とか“爪痕を残さねば”とかばかり考えていたんです。
でも『バイプレイヤーズ〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』という連続ドラマをやった時に、現場をいかに楽しむか、観た人にいかに楽しんでもらえるかを考えている大杉 漣さんたちが、すごくかっこよく見えたんです。
もちろんこだわりは絶対にあると思うんですけどね。でも、こだわりを押し付けるより、ひとりでも多くの人に愛される作品を作りたい、演じている子たちが輝く作品を撮りたいと思ったんです」
とはいえ、主人公たちはハンドボールを“がんばっているフリ”をしてSNSで発信してしまい、全国から届く善意に振り回されていく。シニカルな監督らしい視点も健在だ。
「彼らが承認欲求を満たすために発信した“#ハンド全力”という言葉を、噓くさい無価値なものにしたかったんです。
それが彼らを縛り付けていく話になったらおもしろいかなって。本当に全力な人は全力なんて言わないですからね。
“#感謝”とかもあんま好きじゃないんです。本当に感謝してるならSNSにあげる前に伝えろよって思いますから(笑)」
学生時代の監督は、生徒会の副会長を務め、バレーボール部に在籍。充実した青春のように思えるけれど。
「全然ですよ……。バレー部では3年間一度もベンチに入れなかったですし、ずっと球拾い。授業を抜け出して生徒会室で漫画を描いたり、マインスイーパー(ゲーム)をずっとやってました。
中高時代はあまりがんばれていなかったと思います」
2020.06.14(日)
文=松山 梢
撮影=榎本麻美