かまやつひろしとのすれ違い
その時、その演奏をステージの袖から観ていたのがかまやつひろしさんでした。
出番が終わると、かまやつさんがツカツカと歩み寄ってきて、「君のキーボード、すごくいいねえ。今度、僕は九州でツアーをやるんだけど参加してくれない?」と誘ってくれた。
僕はザ・スパイダースのファンだったものですから、その言葉を聞いて、天にも昇る気持ちになりました。あまりにもうれしくて、そのことを裕也さんに報告したんです。
「あの時、裕也さんが声をかけてくれたことがきっかけになって、かまやつさんのバンドに参加することになりました」
てっきり喜んでくれるかと思ったら、何と、返ってきた答えは「(裕也氏に瓜二つの声色で)てめえ、ムッシュと俺とどっち取るんだよ、馬鹿野郎!」。
烈火のごとくというのはこういう様子を言うんだなと思うぐらい怒られまして、かまやつさんには「すいません。これこれこういうことでかまやつさんとご一緒することは一生無理だと思いますので」と電話で謝りました。
その後、かまやつさんとともに演奏することは本当に一度もありませんでした。
この間、かまやつさんが亡くなった後に、故人を追悼する番組で、初めてかまやつさんの楽曲を演奏することができました。あれは誰とやったんだっけかな。Charもいたんじゃないかな。
その放送を観ていた裕也さんが「あれ、よかったよ」と言ってくれたんですが、50年近く前のあの烈火のごとき怒りは何だったんだろうと思いました。
とにかく、あの時以来、私は内田裕也の一家の者になったんだなと観念し、今日までずっとやってきております。
2019.02.26(火)
構成=下井草 秀(文化デリック)
撮影=釜谷洋史
写真=文藝春秋