「ムゲン」で観た
バーケイズの素晴らしさ

 その頃、赤坂に「ムゲン」というディスコがあったんですが、ここに、ザ・バーケイズというアメリカのバンドがハコバンとして入っていたんです。

 えー、説明が必要ですね。ハコバンというのは、その店にレギュラーとして雇われているバンドのこと。

 このバーケイズが、ほんとに素晴らしかった。今まで生きてきた中で観たバンドの中でも、一、二を争うほど素晴らしい演奏を連日連夜繰り広げていたんです。だから、私は毎晩のようにバーケイズを観るために「ムゲン」に通っていました。

 バーケイズは、そもそもオーティス・レディングのバックバンドだったんですが、飛行機の墜落事故で、オーティスもろともメンバーの数人を失ってしまう。

 「ムゲン」で演奏していたのはその後メンバーチェンジを経てからの編成でした。それにしても最高だった。

 そのバーケイズが、麻生レミさんと一緒に日比谷の野音でコンサートをやることになった。

 71年には、後楽園球場で行われて伝説となったグランド・ファンク・レイルロードの来日公演の前座を麻生レミさんのグループが務め、評判になりました。

 そのライブを含め、普段、麻生さんのバンドでは柳田ヒロさんがキーボードを弾いていたんです。はっぴいえんどの前身となったエイプリル・フールのメンバーとしても知られるミュージシャンですね。

 ところが、バーケイズとの共演の日は、何かの都合で柳田さんのスケジュールが空いていなかった。それで急遽、私にお呼びがかかったというわけです。

 野音で「ムーヴ・オーヴァー」とか、ジャニスのカバーを演奏したのが、僕にとっていわゆるプロのバンドでお金をもらった初めての機会となりました。

 高校生の頃、ビアホールのステージなんかでキーボードを弾いてバイト料をもらったことはありましたが、それとこれとは話が違う。

 この日の野音でのプレイが、自分にとってプロフェッショナルとしてのスタートラインになったと思っています。

2019.02.26(火)
構成=下井草 秀(文化デリック)
撮影=釜谷洋史
写真=文藝春秋