全てのスタッフさんが
田中くんを大好きになりました

――ユミを助けることになる、カフェ兼ゲストハウスのオーナー、西山君は不思議なキャラクターですね。誰にもオープンだけれど、距離がある。演じる田中俊介さんは、スヨンさんから見て西山君に近い部分がありましたか?

 かなり近いです。悪い意味ではなくて、壁というか、少し隠している部分がある。隠すということは、今の時代、私はすごく良いことだと思います。たとえ気分が良くなくても、相手のことを考えてそれを隠して笑顔を見せるのは大事なこと、礼儀だと私は思います。

 私が感じた田中くんも、ちょっとわからない状況に置かれても、スムーズに対応することができる人。カフェのみんなが西山くんを大好きなように、全てのスタッフさんが、田中くんを大好きになりました。すごく柔らかくて優しくて。でも、自分の気持ちを隠して対応することもできるところは、西山君みたいですよね。

 仲良くなってからは、友達同士になれて、いろんなことを話せました。仕事に対して本当に真面目で、スタッフの皆さんの気持ちを考えてくれる、すごく礼儀正しい役者さんだな、と思いました。

――スヨンさんは、ユミという役をどう捉えて演じましたか?

 原作を最初に読んだ時には、受身なタイプの女性だと感じました。スヨンとは全然違うキャラクターで、別れに対する行動も全然違う(笑)。どう納得したらいいんだろう、と。

 でも何度も何度も読むうちに、私は今までの人生でこういう痛みと出会ったことがない、と気がついたんです。誰でも、信じた人に裏切られたら、すぐに怒ったり、行動力を発揮したりはできないんじゃないのかな? と思い至って。

 どんどんユミのことを理解していくうちに、完全に原作通りではないけれど、監督の女性らしい部分もちょっと追加して役づくりをしていきました。最初、名古屋に来て、ホテルで窓の外を見ながら妹と電話する場面があるんですね。そのとき、本当に慣れない場所に来て、完全にひとりになった気がしました。

 ここで頼れる人は、彼氏しかいないのに、彼氏に連絡がつかない――その気持ちから出発して、恋人との別れ、西山君との出会いへと、自然に演じて行けたかな、と思います。

――吉本ばななさんには、お会いになりましたか?

 はい、現場にお越しいただきました。差し入れも持って来てくださって、本当に嬉しかった。それなのに、その時、原作本を持っていなくて、サインをいただけなかった~! 作家さんというと、すごく厳格なイメージを持っていたんですが、本当に、普通のおかあさんみたいな温かさがあって、心があったかくなりました。

2019.01.26(土)
構成=石津文子
撮影=佐藤 亘