私自身いろんな悩みを
持っていた時期でした

――恋人との別れで弱ってしまったユミちゃんは、西山くんの力と、ひとりの時間を経験したことで、少し強くなって韓国に帰っていく。スヨンさんは、弱ったり、悩んでいたりする時にはどう対処されますか? 

 実は、この映画を撮影したときの私が、実際にいろんな悩みを持っていた時期でした。家族からも韓国からも離れたかった。ケータイも持っていきたくないぐらい、慣れ親しんだ場所から離れて、自分をリフレッシュして、これからの人生について考えてみたかったんです。

 そんなときに、名古屋に撮影に行くことになったので、いろんなことに挑戦してみよう、って。でも結局は、悩む時間もないほど毎日撮影が続いて。

 この作品に集中しながら、新しい現場で新しい人たちから刺激をもらえて、ほんとうにラッキーでした。田中くんと出会って影響を受けました。そんな学びと経験が、次のステップや、プランを立てられる良い機会になったと思います。

 30歳を前に、ユミちゃんみたいに、ひとりで旅行にも行きました。仕事で海外に行く時はマネージャーさんと一緒だし、素敵なホテルに泊まったり、車も用意されていたりしますが、今回はまったくのひとり旅。予約も全部、自分でしたんです。安いホテルで怖かったです(笑)。

――どちらへ行かれたんですか?

 LAに行きました。ローカルの人たちみたいにヨガをしたり、カフェで本を読んだり。そんな時間を過ごすうちに、私がしている仕事がこの世の中で全てだという考え方では、気持ちが辛くなるばかりだと気づきました。もっと、世界は広かった。広くて、目指しているところまで行かなくても、その人生も、その人生なりに美しい、と。

――良いことを言う! 素晴らしいです。

 あはは。普通に生活をしている、自転車で走っている女性や、バイトしている女の子を見ながら、そう思えてきて。そうしたら、仕事に対する態度も変わりました。

――悩みというのは、30歳を前にずっとこのままでいいのか、ということですか?

 そうですね。そういう悩みがありました。

――CREA WEBの読者にも、同じ悩みを持っている人が多い気がします。最後に、読者へメッセージをお願いします。

 愛する人との別れだけでなく、いろんな痛みや悩みを慰めてくれる文章がたくさん込められている原作なので、私もそういう表現を映画で出せるように、取り組みました。この映画を観て、悩みや痛みを乗り越えて、もう一歩踏み出す勇気をもらって帰ってほしいと強く思います。ぜひ、その部分も意識してご覧いただきたいです。

スヨン

1990年生まれ。韓国広州出身。2007年にアイドルグループ・少女時代のメンバーとして韓国でデビュー。幼少期を日本で過ごした経験から、日本語が堪能で本作でも流暢な日本語を披露している。現在は音楽活動だけでなく、女優業にも力を入れ幅広く活動を行なっている。映画主演は本作が初。

映画『デッドエンドの思い出』

メガホンを取ったのは、本作が長編デビューとなるチェ・ヒョンヨン監督。学生時代、日本文学と映画学を韓国でダブル専攻。名古屋での撮影は円頓寺商店街を舞台にした短編映画「お箸の行進曲」に続いて2度目となる。
主人公のユミは、遠距離恋愛中の婚約者を追いかけて、韓国から名古屋へやってくる。彼の裏切りに絶望し、あてもなく名古屋の街をさまようユミが行きついたのは、古民家を改造したカフェ&ゲストハウス「エンドポイント」。そこで出会ったオーナーの西山くんは不思議な存在感の持ち主。
西山くんのさりげない心遣いや、カフェに集うちょっぴりおせっかいな常連客たちは、いつしかユミを癒し、ゆっくりと立ち直らせてくれるのだった……。

監督・脚本 チェ・ヒョンヨン
出演 スヨン(少女時代)、田中俊介(BOYS AND MEN) 他
原作 よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫刊)
製作 ZOA FILMS、シネマスコーレ
配給 アーク・フィルムズ/シネマスコーレ
●2019年2月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2月2日(土)シネマスコーレにて、名古屋先行公開
http://dead-end-movie.com/
©2018「Memories of a Dead End」FILM Partners

スヨン&田中俊介が語る
『デッドエンドの思い出』

2019.01.26(土)
構成=石津文子
撮影=佐藤 亘