「『人は死ぬ』と実感できれば
しっかり生きられる」

 ゆくゆくは子供と一緒に住みます。面倒はみませんけど、面倒はみてもらいます。

 自分のためには一人のほうがむしろ気楽なんですよ。でも、うちの娘なり、婿なり、その子供たちが、私の死に際を実感として感じられる。ずっと離れて暮らしていると、あまり感じられないのですね。「人は死ぬ」と実感できれば、しっかり生きられると思う。

 終了するまでに美しくなりたい、という理想はあるのですよ。ある種の執着を一切捨てた中で、地上にすぽーんといて、肩の力がすっと抜けて。存在そのものが、人が見た時にはっと息を飲むような人間になりたい。形に出てくるものではなくて、心の器量ね。

(AERA「私の夢みる大往生」1‌9‌9‌6年9月)

※掲載された記事について、執筆された著作権者の連絡先などが不明のものがありました。お気づきの方は文春文庫編集部までお申し出ください。

『一切なりゆき
 ~樹木希林のことば~』

著・樹木希林
本体800円+税
文春新書

この書籍を購入する(文藝春秋BOOKSへリンク)

樹木希林(きき きりん)

1943年東京都生まれ。女優活動当初の名義は悠木千帆、後に樹木希林と改名。文学座附属演劇研究所に入所後、テレビドラマ「七人の孫」で森繁久彌に才能を見出される。ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」などの演技で話題をさらう。出演映画はきわめて多数だが、代表作に『半落ち』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』『歩いても 歩いても』『悪人』『わが母の記』『あん』『万引き家族』などがある。61歳で乳がんにかかり、70歳の時に全身がんであることを公表した。夫はロックミュージシャンの内田裕也、長女にエッセイストの内田也哉子、娘婿に俳優の本木雅弘がいる。2018年9月15日に逝去、享年75。