『一切なりゆき
 ~樹木希林のことば~』より①

 新刊『一切なりゆき ~樹木希林のことば~』(文春新書)は、先ごろ永眠した女優・樹木希林が遺した語録だ。生きること、家族のこと、病のことについて、本人が語った思いを集めた本書。噛むほどに心に沁みる樹木さんのことばとは……。


「モノを持たない買わない
 という生活はいいですよ」

 靴も昔から、長靴を含めて3足と決めています。長靴は40年ほど前に業務用のものを買って履き続けていたんですが、先日、履いているうちに中がちょっとしみてきてしまって。仕方なく出先で別の長靴を買ったので、一瞬だけ家に靴が4足ある状態になりましたけど(笑)。

 洋服は、自分で買ったものはほとんどなくて、どなたかからお古を譲っていただいて、それを着やすいように自分で胸ポケットをつけてみたり、ちょっとリメイクして着ています。家具にしても同じ。どなたかが「もういらなくなった」というものをいただいて使っています。

 もともとケチだということもありますけど、一度使い始めたら、それをできるかぎり活かして、最後まで使い切って終了させたいんです。「始末」ですね。

 先日も、近所の方が引っ越しをする際に、家具を捨てていったんです。たしかに古ぼけていましたけど、昔の家具というのは素材がよくて造りもしっかりしているので、ちょっと直せば十分使える。その家具も自分で表面を塗り直して、今使っています。

 モノを持たない、買わないという生活は、いいですよ。部屋がすっきりして、掃除も簡単。汚れちゃったけど、いまは忙しいから掃除ができない、どうしよう……なんていうストレスもない。暮らしがシンプルだと、気持ちもいつもせいせいとしていられます。

(PHPスペシャル「歳をとるのはおもしろい」2‌0‌1‌5年7月)

2018.12.18(火)
写真=文藝春秋