アジアを歌った曲が醸し出す
レモングラスの香り
ユーミンのご当地ソングには、海外を歌ったものも多い。特に、『水の中のASIAへ』という4曲入りEPの収録曲はお気に入りです。
「スラバヤ通りの妹へ」は、インドネシアの首都ジャカルタに実在する通りが舞台。「HONG KONG NIGHT SIGHT」は、ユーミンのレパートリーの中で唯一、松任谷正隆さんが作曲を手がけている曲。『スージー・ウォンの世界』という映画のヒロイン、スージー・ウォンの名前が歌詞に登場するのも憎いですね。
アジアの都市の光と影をこういう切り口で取り上げるのは、このレコードが発売された81年の時点では相当新しい試みだったんじゃないかなと思います。
ホテルで喩えるなら、バンコクの「オリエンタル」(現マンダリン オリエンタル)やシンガポールの「ラッフルズ」みたいにコロニアルな感覚。レモングラスの香りが、音から漂ってくるようです。
その土地からじわじわと沁み出してくる、ソウルミュージックの地縛霊ともいうべきものの存在が、ユーミンの楽曲にはきちんと刻まれています。
ひとたび具体的な地名が登場すると、その歌はちょっとドロドロとした実体を背負ってしまうものですが、ユーミンの場合、ギリギリのところでファンタジーとして成立させることに成功している。尊敬します。
Column
横山剣の「俺の好きな女」
東洋一のサウンド・マシーン、クレイジーケンバンドを率いる横山剣さん。その常人の域を超えた旺盛なクリエイティヴィティにインスピレーションを与える源泉のひとつが、魅力的な女性たちの存在。これまでの人生で恋し憧れてきた、古今東西の素敵な女性について熱く語ります!
2018.11.08(木)
構成=下井草 秀(文化デリック)