一冊の本が、ここのところマニアックなTVウォッチャーの間で話題を呼んでいる。その名は『2時間ドラマ 40年の軌跡』(東京ニュース通信社)。「土曜ワイド劇場」「火曜サスペンス劇場」をはじめとする2時間ドラマの歴史を、制作現場のスタッフによる証言や各局の内部資料などを用いて見事に掘り下げた快著だ。
電通、NHKなどを経て現在は阪南大学教授を務める著者の大野茂氏と語り合うのは、2時間ドラマファンを自負するライター・評論家の速水健朗氏。さあ、「土ワイ」や「火サス」のディープな世界へようこそ!
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「土ワイ」と「火サス」の
決定的な違いとは?
速水 2時間ドラマと言えば、湯けむりですよね?
大野 土ワイ(テレビ朝日系)のプロデューサーだったABC朝日放送の山内久司さんがかなりの温泉マニアだったんですね。彼が日本中の温泉を巡って企画していったという経緯です。
速水 それは取材費で行ってたんですかね、公私混同……。
大野 でもこれが2時間ドラマの歴史の中でもトップ視聴率の人気シリーズになりまして。
速水 なるほど、やっぱりあれが一番人気だったんですね。
大野 「混浴露天風呂連続殺人」シリーズです。古谷一行さんと木の実ナナさんの共演。ちなみに、シリーズ中最高視聴率を記録した86年の第5作は、登場する温泉の名前がですね……。
速水 あれですね。乳頭温泉。名前からしてちょっとエロいという。
大野 そうなんです。秋田県の田沢湖の近くの温泉です。土ワイ史上最高の36.3パーセントという視聴率を取ってます。この数字は関西のものですけど。
速水 2時間ドラマは常に関西で数字がいいんですよね。
大野 不思議とそうなんです。
速水 小学生の僕は「ひゆ」って読んでましたけど、秘湯(ひとう)ブーム自体も2時間ドラマ由来じゃないですか。ハトヤみたいな団体向けの温泉旅館が主流だったのが、このころから人はひなびた温泉こそが真の温泉だ、みたいに思い始めたような。
大野 でも「混浴露天風呂連続殺人」シリーズって伊豆の温泉から始まっているんですよ。
速水 スタートはどメジャー温泉だった。
大野 それが、気がつくと秘湯めぐりの企画になっていたみたいです。
2018.10.14(日)
構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋