「土ワイ」の売りは旅情とお色気

速水 ちなみに2時間ドラマのこうした研究ってどのようにされてるんですか?

大野 資料として、時代ごとのタイトルのデータベースを作ってます。こうしたテキスト解析は、よく社会学者がやったりしますけど。ちなみに「温泉」という単語の登場回数を比較すると、火サス8 対 土ワイ146という結果になります。

速水 土ワイと火サスはまったく別もの、一緒くたにしちゃいけないんですね。

大野 旅情とお色気は、老舗の土ワイが生み出した文化なんです。

速水 そうか。言われてみると火サスは、2時間ドラマのニューウェーブだった気がします。

大野 まず火サスは、女性に向けて作ったところが新しかったですよね。当時、まず火曜日の21時を主婦向けの時間帯として定義したんです。

速水 あ、うちがまさにそうでした。僕ら子どもを寝かしつけた母親がやっと一段落。まだ父親は仕事から帰ってこないのでゆっくりドラマでも観るか、という感じだったと思います。

大野 当時はまだテレビがメディアの王様で、どの番組もオールターゲットで作っていた時代です。主婦ターゲットという番組自体がまだ少なかった。

速水 主婦向けだと、昼のワイドショーとかですかね。

大野 そうですね。再現ドラマとかはワイドショー発の文化なので、近いものがありますよね。あと火サスは、女の人生をテーマにしたサスペンスを志向してました。探偵が謎解きをするのではなく、犯人の目線で人生を描くといった感じです。

速水 土ワイとの差別化で人間ドラマを目指したんですね。かなり鮮明に思い出してきました。

» talk03に続く

『2時間ドラマ 40年の軌跡』

著・大野 茂
発行 東京ニュース通信社
発売 徳間書店
1,500円+税

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大野 茂(おおの しげる)

阪南大学教授(メディア・広告・キャラクター)。1965年東京生まれ。慶応義塾大学卒。電通のラジオ・テレビ部門、スペースシャワーTV/スカパー! 出向、NHKディレクターを経て現職。著書に『サンデーとマガジン』(光文社新書)がある。

速水健朗(はやみず・けんろう)

ライター・評論家。1973年金沢市生まれ。TOKYO FM「速水健朗のクロノス・フライデー」などに出演中。近著に『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)、『東京β:更新され続ける都市の物語』(筑摩書房)など。