一冊の本が、ここのところマニアックなTVウォッチャーの間で話題を呼んでいる。その名は『2時間ドラマ 40年の軌跡』(東京ニュース通信社)。「土曜ワイド劇場」「火曜サスペンス劇場」をはじめとする2時間ドラマの歴史を、制作現場のスタッフによる証言や各局の内部資料などを用いて見事に掘り下げた快著だ。

 電通、NHKなどを経て現在は阪南大学教授を務める著者の大野茂氏と語り合うのは、2時間ドラマファンを自負するライター・評論家の速水健朗氏。さあ、「土ワイ」や「火サス」のディープな世界へようこそ!

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ドラマチックな主題歌の説得力

速水 火サス(日本テレビ系)といえば、鮮明で忘れられないのは主題歌です。岩崎宏美「聖母(マドンナ)たちのララバイ」。

大野 当時はもうMTVが始まっていたんですね。映像と音楽の融合というのは、その影響があったように思います。でも、それを当時のスタッフにいっても「考え過ぎです」って返されてしまいましたけど(笑)。

速水 火サスはジャジャジャーンっていうCMに行くときのジングルが怖かったです。

大野 ドラマの中に、オリジナルの音楽を使うことを強く意識してます。ベストテン番組の人気のピークも80年代の初頭で、テレビ主導で音楽が広まるのが当たり前になっていた時代だったんです。

速水 「聖母たちのララバイ」は、当初はレコード化の予定もなかったのが、反響のすごさで作ったら大ヒットというパターンでした。

大野 カセットテープのプレゼントを募集したら30万通の応募ハガキが届いたっていう。これは、ゴダイゴが歌った「西遊記」の主題歌「ガンダーラ」への応募数をはるかに超える数字でした。

速水 レコードにしたら軽くミリオンを突破してしまったという。

大野 当時のテレビの影響力ってすごかった。

速水 面白いのは、岩崎宏美は当時火サス観てなかったんですよね。

大野 火曜日の夜は毎週新幹線での移動中だったので、リアルタイムでは観ていなかった。あと忙しすぎて、移動中はずっと寝ていたという話でした。

速水 なので火サスがブームになっていることとか、あまりピンときてなかった。あと、ドラマのために作った曲なんですよね?

大野 あとからクレジット変更になるという、盗作云々の話もあるにはあったんですが(『聖母たちのララバイ』の作曲クレジットにはのちにJohn Scottの名が加えられている。1980年公開の映画『ファイナル・カウントダウン』の中の音楽と酷似しており、共作の扱いとなった)、とにかくドラマチックな曲を最後に持ってきて説得力を高めるという狙い。1話1話がバラバラの話なんで、何かでくくらなきゃいけないという時に、音楽でひとくくりにしようと。

速水 それも、岩崎宏美の歌唱力込みですけどね。

大野 母の胸に抱かれて救われる。マザコンがテーマだとプロデューサーに聞きました。

速水 無駄に説得力が高かった(笑)。

2018.10.17(水)
構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋