一冊の本が、ここのところマニアックなTVウォッチャーの間で話題を呼んでいる。その名は『2時間ドラマ 40年の軌跡』(東京ニュース通信社)。「土曜ワイド劇場」「火曜サスペンス劇場」をはじめとする2時間ドラマの歴史を、制作現場のスタッフによる証言や各局の内部資料などを用いて見事に掘り下げた快著だ。

 電通、NHKなどを経て現在は阪南大学教授を務める著者の大野茂氏と語り合うのは、2時間ドラマファンを自負するライター・評論家の速水健朗氏。さあ、「土ワイ」や「火サス」のディープな世界へようこそ!

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ヒロインの職業のバリエーション

速水 2時間ドラマでは多彩な職業が描かれています。僕の同業者もわりと出てきます。

大野 フリーライター、ルポライターは定番ですね。

速水 僕も学校で就職講座をやるときは、仕事の内容をパワポで説明したりするんですけど、まず榎木孝明と中村俊介の写真を出して浅見光彦と同業ですって説明します(笑)。

大野 殺人事件に巻き込まれがちですよね。

速水 実際にはそんなことは、一度もないんですけどね。電車に乗って取材旅行とかに行くたびに不謹慎ながら「殺人事件でも起こらないかな」って思いますね。

大野 そうそう巻き込まれても仕事にならない(笑)。

速水 最近のことですけど、内田康夫さんが亡くなられたことは、2時間ドラマ史的には大きな出来事でした。

大野 西村京太郎の十津川警部、山村美紗の狩矢警部らと並ぶ2時間ドラマの最重要人物ですね。中でも浅見光彦が一番、演じた役者の数は多いんじゃないかな。

速水 金田一耕助だったら、映画は石坂浩二、テレビだと古谷一行とか、特定の役者のイメージが強かったりしますけど、浅見光彦役者だと強いて言えば、榎木孝明ですか。

大野 そうなりますかね。


速水 育ちのいいぼんぼんの優男が探偵って設定にうってつけ。浅見光彦は、おもしろい設定ですよね。兄が警視監なので、その権力でもって現場に介入したり(笑)

大野 実は権力者っていうのは、時代劇のパターンでもありますよね。

速水 ただの隠居に見えて、実は徳川御三家ですみたいな(笑)。それはともかく、ルポライターに限らず、2時間ドラマは職業を描くドラマでもありますよね。

大野 そうなんです。火サスも80年代半ばになると職業モノのシリーズが主体になります。「検事・霞夕子」「監察医・室生亜季子」「警視庁鑑識班」「弁護士・高林鮎子」って。

速水 女性の職業ものがたくさんつくられてますね。

2018.10.20(土)
構成=速水健朗
撮影=深野未季
写真=文藝春秋