女の人達がホッとひと息つけるような
フィクションを
今月のオススメ本
『完璧じゃない、あたしたち』 王谷 晶
全23篇はグッとくるタイトル揃い。「ばばあ日傘」「Same Sex, Different Day.」「北口の女(ひと)」「だからその速度は」「春江のトップギア」「ときめきと私の肺を」「ヤリマン名人伝」「東京の二十三時にアンナは」……。「WEB asta」では4篇を試し読みできる。
王谷 晶 ポプラ社 1,600円
23篇全てが、ガール・ミーツ・ガール。王谷晶の『完璧じゃない、あたしたち』は、ありそうでなかった“縛り”で編まれた短篇集だ。
「売れないライトノベル作家をやっていた頃、勝手にいろいろな企画を練っていて。そのひとつが、女同士の関係だけを書いた短篇集でした。内容は固まっていないけどタイトルは決まってる、というネタのストックがいっぱいあったんですよ。それを女同士の関係で書いてみたらどうかな、と」
第1篇「小桜妙子をどう呼べばいい」は、日常会話で一人称(私、あたし、妙子、オラ etc.)を定められず悩む東京在住30歳のOLが、職場で出会った夏実クラーク横山さんのしなやかな感性に触れ、爽快感とともに特別な友情を手に入れる物語。一転してシュールな第2篇「友人スワンプシング」は、マヒロの中学時代からのツレ・さっつんが、足が無くなる夢を見たことから始まる変身譚だ。ミステリー、本格SF、ホラーな戯曲、恋愛モノ……。打率十割。とにかく、どれを読んでも面白い。
「両親が昔本屋をやっていたこともあって、家にあった古今東西の本をひたすら読んでいました。映画もジャンルを問わず、浴びるように観てきましたね。そのかわり、まともな社会参加はしていない(笑)」
自身の経験を元にしていたら、このバリエーション、このリアリティの強度は達成できないだろう。
「会社や学校で戦っている女の人のツイッターやブログを読んでいると、女であることのプレッシャーを日々感じながら生きているなって思うんです。その人達が、ホッとひと息つけるようなフィクションにしたかったんですよね。すね毛を伸ばしたらとことんまで行ってしまった女の子の話とか書いてますけど、いい年こいてメリットで髪を洗ってもいいじゃんって思う(笑)。だらしない生き方だとか、まともから逃げることの肯定をしたかったんです」
今回は、WEBで連載された14篇に、書き下ろし9篇を加えて単行本化した。この短篇の路線は継続しつつ、次は長篇に挑戦したいと言う。
「女の人が読んでいてつらくならない、片目をつぶらなくても読める物語を増やさなきゃいけないなって使命感があります。その一番最初のチャレンジがこの本で良かったなと思うのは、1篇がだいたい原稿用紙10枚程度なんですよ。これだけ短いと“ちょっと読んでみてください”って言いやすいんです。だから……どれかひとつ、読んでみてください」
王谷 晶(おうたに あきら)
東京都生まれ。小説家。著書に『探偵小説には向かない探偵』『あやかしリストランテ 奇妙な客人のためのアラカルト』(ともに集英社オレンジ文庫)などがある。
Column
BOOKS INTERVIEW 本の本音
純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!
2018.05.05(土)
文=吉田大助