姉妹が乗り出した
地方再生の行方は──

今月のオススメ本
『メガネと放蕩娘』 山内マリコ

長女のタカコは家業は継がずに市役所の広報課に勤める公務員に。田舎を嫌って出奔した次女のショーコは、10年ぶりに街に戻ってきたが、街の惨状に胸を痛め……。地元愛あふれる山内さんは、CREAでの連載終了後も取材を重ね、単行本化にあたり全面改稿。
山内マリコ 文藝春秋 1,500円

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 いまやシャッター街と化した地方のとあるアーケード商店街。そこで本屋としては唯一細々と営業を続けている〈ウチダ書店〉の姉妹が、街の再生のために立ち上がった。『メガネと放蕩娘』は、地方都市に生きる女の子たちの閉塞感を描いて共感を得てきた山内マリコさんの、最新作にして新境地の一冊だ。

「デビュー短篇集『ここは退屈迎えに来て』を出した2012年以降、地方女子の代弁者のように見られることが増えました。当時は私自身にも、地元が退屈だとか息苦しいといったネガティブな気持ちは確かにあったし、自分で環境を変えられない無力な若い時期は、その内向きなジレンマが小説になりました。けれど、私も30代半ばを過ぎ、さびれていく地方の状況を憂えているだけではダメだと。心境の変化ですよね」

 地元を出たことがないタカコ、一度は飛び出したショーコ。どちらの気持ちも、地方女子の本音だろう。

「地元に対しては、愛情も愛着もすごくあるんです。でも、じゃあUターンしてまた住みたいかといえば、難しいところで。そういうアンビバレントな感情を、姉妹のキャラクターに投影しています」

 本作に登場する商店街や姉妹には、うっすらとしたモデルがある。

「作中に出てくるのと同じ〈フリポケ〉と呼ばれたチャレンジ・ショップ(お店をやりたい若者が試験的に出店できる複合テナント)が、地元富山市の中央通り商店街に実際にあったんです。それを手がけたのが、私が“伝説の姉妹”と呼んでいる女性たちで。空き店舗対策の成功例として、新聞やテレビにも取り上げられ、全国から視察が殺到したそうです」

 活気を取り戻していく商店街。しかし、実際にはそうした“心意気”だけではすまない現実もある。

「手弁当で、地域のみんなを結託させ、盛り上げるのは女性が強い。ただ、その先にある壁も書かなければ、リアルではないと思った」

 山内さんは続ける。

「旅先の商店街がさびれていると、『この町、終わってる』と思ってしまいますよね。商店街はよくも悪くもその街の顔。そこを舞台にしたのは、中心街に元気がなくて機能不全に陥っていたら『このままじゃマズいと思いませんか』と揺さぶりたいと思ったから。デビュー作で地元を“退屈”と言い切ってしまったことへの贖罪の気持ちもありますね」

 女性や地域の人々の変化を描きつつ、まちづくりの本質にも迫った、社会派エンタメ小説だ。

山内マリコ(やまうち まりこ)
1980年富山県生まれ。2012年『ここは退屈迎えに来て』で作家デビュー。『アズミ・ハルコは行方不明』が映画化され話題に。『かわいい結婚』『東京23話』『あのこは貴族』など著書多数。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2018.01.03(水)
文=三浦天紗子

CREA 2018年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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