15歳の頃の感覚って
今もまったく消えてないんです
今月のオススメ本
『望むのは』 古谷田奈月
優れた色彩感覚を持つ高校1年生の小春は、お隣に引っ越してきた同級生の歩君から「見たことのない色」を感じる。ゴリラの母親を持つ彼は、本当のところ、自分自身をどう思っているのか……。さまざまな個性や関係性が乱反射しながら進む、全五篇の連作短篇集。
古谷田奈月 新潮社 1,500円
書かれていることを、そのまま読むことって実は難しい。常識や先入観、期待や警戒心が読み手の内側で発動し、意味を勝手に補完したりねじ曲げてしまうものなのだ。その点を踏まえたうえで、古谷田奈月の小説『望むのは』の一部設定をお伝えします。主人公は、高校1年生の女の子・松浦小春。隣の家のお母さんは、ゴリラだ。
「日常生活の中で、びっくりするぐらい個性的な人にたまに出会います。彼らに近付くことって怖さもあるけれども、自分とまったく違う価値観を持っているということは、自分とは世界の見え方が違うのかもしれない。ましてやゴリラであれば、体の形からして違うわけじゃないですか。そう考えるとワクワクしませんか?」
物語の冒頭で、3月生まれの小春が表明する次の言葉も、真に受けたほうがいいようだ。〈十五歳。若い人間として生きられる、これが最後の一年だ〉。
「それは私自身が当時、思っていたことなんです。15歳と16歳の間にラインを引いて、15歳が終わったらもう何も無いと考えて、常に緊張して生きていました。とにかくすごく混乱していて、自分が今何を考えているか、本当に何を望んでいるのかがぜんぜん分からない。その感覚って、今も消えていないです。私の中に、15歳の自分がずっといます」
ゴリラのお母さん―秋子さんには息子がいる。最近まで離ればなれに暮らしていた、人間の歩だ。始業日の教室で「ぼくは、バレエダンサーです」と自己紹介した彼に、小春は強烈に惹き付けられる。隣人の中に動物(ゴリラ、鯛、ハクビシン)がいる世界で、小春は自分の気持ちを測り切れずに悩み、歩との関係性に葛藤する。その様子は、王道の青春小説のオーラをまとって見える。ところが……ラストで本格ミステリーへと変貌する!
「ミステリーを書いたつもりはなかったんです(笑)。ある登場人物が、すごく悩んで落ち込んでしまっている。暗い過去がある。その原因はこういうことだよねって理解してきたはずなのに、“それ以前の問題じゃん!”ってなる瞬間を作りたかったんですよ。それが分かることで、他の登場人物たちの悩みとか関係性についても、それまでとは見方がちょっと変わってくるんじゃないかな、と」
最後の一行に辿り着けば必ず、もう一度頭から読み直し、自分の理解を検証したくなる。頭からしっぽまで読み手を翻弄して止まない、たくらみに満ちた小説なのだ。
古谷田奈月(こやた なつき)
1981年千葉県生まれ。2013年『今年の贈り物』で第25回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。同作を『星の民のクリスマス』と改題し、デビュー。著書に『ジュンのための6つの小曲』『リリース』がある。
Column
BOOKS INTERVIEW 本の本音
純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!
2017.12.01(金)
文=吉田大助