台湾への思いを全部、出し切るつもりで書きました

今月のオススメ本
『流』 東山彰良

台湾の初代総統が死去した年、祖父が殺された。台北に暮らす17歳の秋生は犯人捜しを試みるが、喧嘩に恋にこっくりさんに兵役に……と毎日が忙しい。日本へ、中国大陸へと流浪する主人公が直面する真実とは? 台湾生まれの著者が描く台湾の姿。
東山彰良 講談社 1,600円
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 1968年台湾生まれ。東山彰良は長篇小説『流』で、自身のルーツを題材に物語を書き上げた。

「この中に出てくるエピソードは、脚色はしているんですけれども、ほぼ事実に基づいています。祖父が戦時中に、中国の小さな村で虐殺をしたこと。その史実の刻み込まれた碑を父が見に行き、“お前は息子か?”と村人に問われて背筋の凍る思いをしたこと……。自分に筆力がついたら、祖父の物語を書きたいと思っていました。その前に、肩ならしのつもりで父をモデルにした物語を書いてみたら、楽しくていっぱい書いちゃったんです(笑)」

 始まりはシリアスなムードなのだ。1975年春、台北在住の17歳の少年・秋生の祖父が殺された。顔見知りの犯行か。怨恨か? 主人公は犯人捜しに奔走する……と思いきや、喧嘩に恋にうつつを抜かす。70年代の台湾を舞台にしたからこそ可能となった、どこか懐かしくて、人と人との繫がりが濃い、温かな空気感の中で、盛りだくさんのエピソードが語られていく。

「替え玉受験のアルバイトをしたのがバレて進学校を退学になって、バカ高校で喧嘩ばっかりの日々を過ごしたというのは、うちの父親が本当にやってきたことです。この本を書くために父親と密に連絡を取って、酒を飲みながらいっぱい昔話をしてもらったんですよ。部屋にゴキブリがぶわっと出てくるエピソードなんかは、僕自身の経験です。怖くて“ばあちゃん!”って叫んだら、祖母と曾祖母が二人がかりでばしばしゴキブリを叩き出して(笑)。自分の子ども時代の思い出も全部、ここに出し切るつもりで書きました」

 恋のエピソードは完全に創作だ。初恋相手とのキスシーン、2人目の恋人へのプロポーズ……。

「1970年代に10代、20代だった人たちの恋愛は、今みたいに速いスピードで進むものではなかったと思うんです。もっともっと時間をかけて、お互いのことを知ったり、ゆっくりと距離を近付けていったりしていたんじゃないか」

 祖父殺しの真相を知り裁きの機会を得た時、主人公はどんな行動を取るか。圧巻のラスト。著者最高傑作だ。

「台湾で過ごした子ども時代、大人たちのホラ話を聞くのが好きでした。僕も彼らみたいに上手なホラを吹きたいんですけど、口べたなんです。でも、文章でなら、少しはうまくホラが吹ける。子どもの頃に憧れていた大人たちに、この一冊で近付けたかなと思います」

東山彰良(ひがしやまあきら)
1968年台湾生まれ。9歳の時に日本に移る。2002年「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。著書に大藪春彦賞受賞の『路傍』など。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2015.07.27(月)
文=吉田大助

CREA 2015年8月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

すぐできる、夏休みっぽいこと

CREA 2015年8月号

すぐできる、夏休みっぽいこと

定価780円