敵味方、血縁、男女。愛と確執の毛むくじゃらなサーガ

今月のオススメ本
『有頂天家族 二代目の帰朝』森見登美彦

狸の名門一家の兄弟や新キャラたちの活躍はいかに。下鴨家の長兄には自分の中の長男気質を、次兄には引きこもりちっくな部分を、三男には小説を書く自分を、末の弟には幼少期の自分を投影しているそう。「“4兄弟の個性を合わせて僕”みたいなところはあります」
幻冬舎 1,700円
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 〈面白きことは良きことなり〉が口癖の、あの愛らしき狸はいま何を──? 京都・糺ノ森に生を受けた下鴨矢三郎とその兄弟たちの消息にやきもきし、ふと思い出しては嘆息する。そんな幾星霜を送ってきたファンの前に、7年半ぶりに〈たぬきシリーズ〉の第二部『有頂天家族 二代目の帰朝』が降臨!

「シリーズなので、すでにキャラクターや関係性はある程度できあがっているわけですが、文芸誌での連載時には“第二部=第一部の延長”というふうに考え過ぎたのが裏目に出ました。僕の場合、出たとこ勝負なところと狙っていくところ、両方のバランスが必要なんです。ともすれば展開を小さくまとめそうになってしまう自分をふりほどいて、引っかき回して改稿するうち、やっと第一部以上の熱が生まれたかなと。書き下ろしに近かった……」

 その甲斐あって、狸、天狗、人間の三つ巴のドラマは、いっそう笑いと涙に包まれる。本作では、新たなキャラクターがあれこれ登場し、意外な人物のカメオ出演もあり。

 中でも印象深いのが、矢三郎の師でもある落ちぶれ天狗〈赤玉先生〉の息子だ。〈二代目〉と呼ばれる彼は、ヴィクトリア朝の英国紳士を気取る、いわば赤玉先生とは真逆のキャラ。ふたりの間には百年の時を超えた確執があり、それが本作の隠れテーマが〝父子〟であることを物語る。

「たとえば明治大正の新帰朝者とその親は、互いの価値観の違いにイライラしたと思うんです。そこまで劇的な父子の対立とはいかずとも、僕もまた〝息子〟ですから、これまで父に対してつどつど感じてきたことがある。僕は作家になって、自分の人生としては満足だけれど、一方では、父親が僕に抱いたうっすらとした期待に応えることはできなかったという思いをずっと振り払えないでいます。二代目だけでなく、下鴨家や夷川家の狸たちに、そんな心情がじわじわにじんでいますね」

 また、第一部以上に恋愛要素が入ってくるので、読んでいても、わくわく、うきうき。

「恥ずかしがっていても、不器用な人ほどそれを乗り越えてしまえばくっつくだけ。矢一郎と玉瀾など、毛玉たちは単純だから微笑ましい」

 そして肝心の矢三郎の恋模様だが、第三部に続くとはいえ、

「矢三郎の弁天への思いが『切なすぎる』という声もよくいただきます。でも矢三郎は、アナーキーなくせに保守的だから(笑)。いちばん“らしい”恋になっていくでしょうね」

森見登美彦(もりみとみひこ)
1979年奈良県生まれ。京都大学大学院在学中の2003年に「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。主な著作に『夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』、TVアニメ化された『有頂天家族』など。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2015.04.21(火)
文=三浦天紗子
撮影=小嶋淑子(ポートレート)

CREA 2015年5月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

10年、ずっと好きなもの

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定価780円