光に満ち溢れた写真と映像が
春を連れてくる
ビートルズに「Here Comes The Sun」という曲があって、彼らの作品の中でこれがいちばん好きだ。
「陽が差してきた、陽が差してきた」と繰り返したあと、「It's all right」で締める。曲調も歌詞もいたってシンプル。その単調さが、降り注ぐ陽の光に包まれる心地よさをよく表していて、聴いているだけで背中がぽかぽかしてくる。
水温む今の季節の多幸感と同じだ。この感覚をビジュアルアートで実現した展示が開かれている。花咲き誇り富士山も間近に望める抜群の環境下にあるIZU PHOTO MUSEUMでの、『永遠に、そしてふたたび』展。
写真や映像を用いる5人のアーティストが出品して全体を構成しているのだけど、会場のどこに身を置いていても強く感じるのは、どこからか降り注いでくる温かい光。
エントランスのドアを抜けると、そこに一枚の写真作品が架かっている。白とも黄とも言えぬ複雑かつ純粋な色を湛えた円形が、画面の真ん中で輝く。写真なのだからただの印画紙だろうに、それ自体が発光しているみたいに眩しく、熱さえ発しているんじゃないかとすら感じられる。
野口里佳の《太陽♯11》である。タイトルの通りお日さまにそのままカメラを向けており、「太陽の色をうつす」という着想からはじまった作品。
続く部屋にも野口の作品が展開されている。暗くした空間に、街の夜景を撮った写真が並ぶ。車のライトや街灯、店のネオンが赤、緑、黄色に輝く。ベルリンを走る2階建てバスに乗って、移りゆく景色を撮ったという。光が滲んでいるのは、車窓を通しているせいか。作品名は〈夜の星へ〉という。
大きな都市の、よくある光景。それがこれほど美しく目に映るのは、光に満ち溢れているからだろう。きっとどんな場所だって、光に満たされていれば素敵に見える。
ん。ということは、美しいのは光そのものか。そう気づいて、先の《太陽#11》を改めて観に戻れば、太陽が発するこの名付け得ぬ色と輝きが、いっそう至上のものと感じられた。
展示はここから横溝静《Forever(and again)》、テリ・ワイフェンバック《柿田川湧水》、長島有里枝〈SWISS〉、川内倫子〈Cui Cui〉と続く。高い人気を誇るアーティストばかりで、作品を一堂に観られるのはうれしいかぎり。
会場を巡れば、いずれの作品にも温かい光が横溢していることがよくわかる。ああ、すべては光だな。そう気づかされると同時に、春の訪れもいち早く感じ取れるのだった。
『永遠に、そしてふたたび』
会場 IZU PHOTO MUSEUM(静岡・長泉町)
会期 2018年1月14日(日)~7月6日(金)
料金 一般 800円(税込)ほか
電話番号 055-989-8780
http://www.izuphoto-museum.jp/
2018.03.31(土)
文=山内宏泰