不気味な絵柄の作品で知られる
ルドンが描いた穏やかな花々
国立西洋美術館のモネ、山梨県立美術館のミレー、高知県立美術館のシャガールなどなど。日本の美術館が所蔵する西洋美術の名品は数多い。東京丸の内の三菱一号館美術館が入手して、2011年に初公開したオディロン・ルドン《グラン・ブーケ》もまた、その代表例として挙げたい逸品だ。
青い花瓶から顔を出し、各々の色と形を自慢げに披露している草花たち。高さ2メートル超の巨大な画面に満ちた花弁は濃厚な匂いを放って、花粉すら舞ってきそうな生々しさがある。本物そっくりに見せる細密な描き方ではないのに、あたかも巨大な生け花と対面したごとき感覚に陥るのは不思議だ。
この絵は、画家が友人ドムシー男爵から依頼を受けて、1900年に描いたもの。完成後は、男爵が住む城の食堂を飾ったという。油彩ではなくパステルで描いたゆえ醸し出せる優しい筆致と色彩は、さぞ卓に着いた人を和ませたことだろう。
The Museum of Modern Art, New York. Gift of The Ian Woodner Family Collection, 2000 Digital image, The Museum of Modern Art, New York/Scala, Florence
《グラン・ブーケ》をはじめ、ルドンの描いた植物をテーマにした展示が「ルドン――秘密の花園」。ドムシー城の食堂を《グラン・ブーケ》とともに飾った15点の壁画が一堂に会したり、オルセー美術館やニューヨーク近代美術館から花をモチーフにした作品がやって来たり。「幻想の画家」と称されるルドンの持ち味がたっぷりと感じ取れる。
ルドンによる穏やかな花々の展示と聞けば、アートに詳しい向きは「あれ?」と思うかもしれない。そうルドンといえば、もっと不気味な絵柄の作品がよく知られている。
気球の形を成して空に舞い上がる巨大な眼や、人面が胴体に張り付いた蜘蛛の版画。または、山の彼方から一つ眼の巨人が顔を覗かせる《キュクロープス》と題された絵画。黒を基調とした悪夢のようなイメージこそルドンとの認識も根強い。
実際のところ、ルドンが色彩豊かな絵を量産し始めるのは50代になってから。今展出品作の多くは、彼の晩年に描かれたものなのだ。
この作風の大胆な変化は、いったいどこからきたのだろう。明確な理由はわからない。ただ、ルドンはもともと眼に見えるものよりも見えないもの、すなわち人の無意識の領域にまで分け入ってイメージを紡ぎ出す画家だった。彼の内面に渦巻く観念が、黒々しく妖しいものから透明性の高い色鮮やかなものへと、何らかの要因によって変化していったのだろう。
ひとりの画家の精神に、はたして何が起きたのか。思いを馳せ想像を巡らしながら、会場を回ってみるのもいい。
『ルドン─秘密の花園』
会場 三菱一号館美術館(東京・丸の内)
会期 2018年2月8日(木)~5月20日(日)
料金 一般 1,700円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://mimt.jp/redon/
2018.01.18(木)
文=山内宏泰