視覚の魔術師
レアンドロ・エルリッヒの遊べるアート
それは一目惚れの瞬間、に近いかもしれない。
アルゼンチン人アーティストのレアンドロ・エルリッヒ作品と対面したときの感覚。観る側は心も身体も、あっという間に「持っていかれる」。安住していたいつもの場所から引き剝がされて、ここではないどこかへ強制移動させられてしまう。行先は軽やかで愉しげな気分に満ちているから、もちろん大歓迎なのだけれど。
名前に聞き馴染みがない? いえ、金沢21世紀美術館の恒久設置作品《スイミング・プール》も彼の作品だといえば、ピンとくる人も多いのでは。プールの底に、人が入り込めるようになっている。上から眺めれば、水中を人が平服で歩き回っているかのよう。世にも不思議な現象が、彼の作品世界ではいともたやすく実現されていく。
森美術館で、彼の大規模個展が始まった。この機に来日したご本人をつかまえて話を聞くと、「自分の作品のことは、なかなか言葉でうまく説明できないんだよね」と言いつつあれこれ教えてくれた。
「まず、ずっと昔から人間に与えられたツールとして、視覚というものはある。視覚から得られる知覚は人にとって揺るぎなき大事なものだし、起きているあいだ僕らは刻々と視覚から情報を受容している。意識していようとしてなかろうと、その集積はきっと僕らの世界観に影響を及ぼしている。だから僕はビジュアルで表現することを続けてきた。
右:(C)Wataru Sato
そうして気づけば、もう20年以上も作品をつくっている。アイデアが尽きたりしないのかって? その点は不安に思ったことがないね。発想の素になるものは、いろいろとある。どうしようもなく捉われてしまう自分の性向や強迫観念。見聞するニュースなんかから得られる素朴な好奇心。作品をつくり続ける過程で頭に浮かぶ思考が、新たな創作のヒントになることも多いね。あとは場所や状況の影響は大きい。訪れた土地や展示をする空間が重要な意味をもたらしてくれたりするから」
今展では、広大な森美術館がレアンドロ・エルリッヒの作品44点で満たされる。世界中で展示を繰り返してきた彼だけど、これほどのスケールは過去にほぼ例がない。床に置かれた建築の壁面に寝転がってポーズをとると、鏡の効果であたかも自分が壁に張り付いているみたいに見えるのは《建物》。廃墟化した教室のなかに自分が亡霊のように映り込む《教室》は、日本での展示にあたって制作された新作だ。
参加型の作品多数で、写真撮影もオーケー。彼が繰り出すイリュージョンのなかで大いに遊び回ろう。
『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』
会場 森美術館(東京・六本木)
会期 2017年11月18日(土)~2018年4月1日(日)
料金 一般1,800円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.mori.art.museum/jp
2018.01.03(水)
文=山内宏泰