クリームティーでクリーム三昧
英国のお茶の時間といえば、なんといっても有名なのがサンドイッチにケーキ、スコーンと紅茶というアフタヌーンティーですが、それよりは少し軽めの、スコーンと紅茶のセットがクリームティーです。
イングランド南西部に位置し、ガルフストリームと呼ばれる暖流の影響で、気候が温暖なコーンウォールとデヴォン。この地は、乳牛の餌となる豊かな牧草に恵まれているため、乳製品のクオリティには定評があります。おのずと、この地方の濃厚なクロテッドクリームを使ったクリームティーも有名になったのです。
そこで、「クロテッドクリームの正体とはいったい?」という問いに答えるべく、前々回の記事で、コーニッシュ・パスティの作り方を教えてくれたフィリー・ウェイ料理学校のジョージ・パスコーさんが昔ながらの製造法を実演してくれました。
ミルク・セパレーターという牛乳を分離させるための遠心分離機を使って、生乳を比較的軽い脂肪の部分(クリーム)と比較的重い液体の部分(無脂肪乳)に分離させます。そこで分けられたクリームを82℃に加熱したうえで、冷蔵庫で一晩おくとクロテッドクリームができあがるというわけです。
クロテッドクリームは、別名デボンシャー・クリーム、コーニッシュ・クリームと呼ばれるほどの、デヴォン、コーンウォール両地方の名産品。しかし、なにかとライバル意識の強い両地方、そこには熾烈な闘いがあるのです。スコーンを食べるお作法として、まず横にふたつに割るところまではいずれも同じ。
しかし、そのあとでクロテッドクリームを先にのせるデヴォン式に対して、ジャムを先にのせるのがコーンウォール式です。「コーンウォールのクリームは我々の誇り。ジャムでクリームを隠すなんて」とコーンウォール人が言えば、「クリームを先にのせるほうが、たくさんのせられる」とデヴォン人も負けておらず。ツイッター上で、「#creamfirst(クリームが先)」「#jamfirst(ジャムが先)」というハッシュタグもあるほど、両者とも自分たちのお作法が正しいと主張して一歩も譲りません。
デヴィッド・キャメロン前首相が北デヴォンのティールームを訪れた際に、「えーと、デヴォンではクリームが上でしたっけ?」と間違ったうえに、「でもどっちみち味は一緒だし」という身も蓋もない言動で、デヴォンからもコーンウォールからもひんしゅくを買ったことがありましたが、まさにたかがスコーン、されどスコーン。両者の闘いは、一向に収まりそうにないのです。
Philleigh Way Cookery School
(フィリー・ウェイ・クッカリー・スクール)
所在地 Court Farm, Philleigh, Truro, Cornwall TR2 5NB
電話番号 01872-580893
https://www.philleighway.co.uk/
2017.05.07(日)
文・撮影=安田和代