イングランド南西部の酪農業を支える
ファミリー・ビジネス、トレウィセン・デイリー

 この地方の名産品であるクロテッドクリームの原料、生乳を生産するコーンウォールの小さな酪農家の多くを支えているのが、ビル&レイチェル・クラークさん一家が率いるトレウィセン・デイリーです。

トレウィセン・デイリーのプロダクトの数々。
チェアマンのビル・クラークさん。熱い語り口から、コーンウォールと自社製品への深い愛が感じられます。

 もともと何世代にもわたって、酪農業をなりわいとしてきたクラークさん一家でしたが、クロテッドクリームの製造に踏み切ったのは1994年のこと。

 というのも、英国の酪農業界は、かつて国の保護制度によって多大に守られていましたが、EUへの加盟と1994年の英国の独自の保護制度の廃止によって、EUの生乳クォータ制度を受け入れることになり、酪農家が牛乳として販売できる量が制限されるようになったからです。

 「子どもたちがベッドに入ってから、クロテッドクリームをつくって、翌朝にデリバリーしていたんですよ」とチェアマンのビルさんは語ります。

コーンウォール、デヴォン地方のスーパーマーケットやショップなどに、このトラックで配送しています。

 その後、乳製品の製造が軌道に乗り、またEUからの補助金も得て、地元の酪農家たちと専属契約を結んで生乳を買い取り、ビジネスを拡大していきました。トレウィセン・デイリーの、契約している酪農家たちから生産したすべての生乳を上限なく買い取る、というシステムは、土地の酪農家の保護につながり、またクオリティの維持にもつながっています。

ミルクボトラー(ミルクをボトル詰めする業者)としては、コーンウォール、デヴォン両地方で第一位の規模を誇っています。
コーンウォールのセント・アイヴスの人気カフェ、ザ・コーヒー・ラウンジ(The Coffee Lounge)でも、トレウィセン・デイリーのクロテッドクリームを使っています。紅茶はもちろん、トレゴスナン。

 「我々のビジネスはあくまで家族経営で、人を大切にするところから始まっています。働いている人だけではなくて、契約している酪農家だったり、地域の人々だったり、またお客さんだったり。我々がここにいる理由は、食べ物への、クロテッドクリームへのパッションがあるからこそ。子どもの頃、親が自家製クロテッドクリームの入ったボウルをもってくるのを、待っていたときのワクワク感はいまも忘れていません」と話すビルさん。

デヴォン出身のビルさんですが、コーンウォールに長く暮らしているので、やはりスコーンはコーンウォール式のクリームが上、だそうです。

 現在では、毎日12~17万リットルの乳製品を製造。デヴォンとコーンウォールのスーパーマーケットやショップはもちろん、アイスクリーム製造業者やカフェなどにも卸しています。

 ロンドンのフォートナム&メイソンは、ロンドンでトレウィセン・デイリーのクロテッドクリームが購入できる貴重な場所。コーンウォールに足を運べない旅行者の方は、フォートナム&メイソンで、ぜひコーンウォールの味を試してみてはいかがでしょうか。

Trewithen Dairy
(トレウィセン・デイリー)

所在地 Lostwithiel, Cornwall PL22 0LW
http://trewithendairy.co.uk/

2017.05.07(日)
文・撮影=安田和代