通常盤のみで勝負すべきだったのでは?

山口 コーライティングもやっているし、真面目に音楽に向き合ってつくっているなと好印象です。ただ、一つだけ余計なことを言うと、セルフプロデュースでやるのなら、初回限定盤A・Bとかやめて、宇多田ヒカルみたいに通常盤だけで勝負すれば良かったのにね。初回限定盤は複数枚を同じ人に売るためのメジャーレーベル的手法だし、一番の目的はオリコンランキングへの対策です。ジャニーズ事務所をやめたのだから「オリコンランキング、カンケーネー!」という態度で渾身の一枚って言い切ったほうがカッコイイし、LINE MUSIC先行配信とかやったら、もっと注目されたと思います。今の時代はリリースやプロモーションの戦略がアーティストの評価の一部です。Hi-STANDARDが告知なく突然CD店で発売するというサプライズをやりましたが、アーティストブランディングとして非常に上手でした。田口淳之介もデジタル配信を先行させて、通常盤のみで勝負したら、「これはジャニーズ事務所にいたらできなかったね」ってわかりやすいでしょ?

伊藤 今回するかはともかく、デジタル配信はするんじゃないんですか。ついてきてくれたファンたちを意識しつつも、次へのブランディングは大胆に。厳しい言い方ですが、新たなファンの獲得ができない限りは“明るい未来”はないわけですから。

山口 新規ファン獲得も大きな課題ですね。そんな彼へのエールも込めて、妄想分析はどうなりましたか?

伊藤 生まれ育った場所を一望できる丘。このキツい坂を駆け登ったのは中学の部活以来、澄んだ空気のなかに何度も白い息を膨らませる。蜃気楼のような街灯りを見下ろすと、そこには彼らを感じる。家族、友、優しい人たち。もちろん嫌いな奴らもいたけど、いまでは靴の中の小さな埃ほどの思い出。

 今夜、僕は旅に出る。サヨナラも言わず、荷物も持たず。ただこの景色を目に焼き付け、旅に出る。明日、彼らは僕を“裏切者”と呼ぶかもしれない。“冷たい奴”だと思うだろう。だけど、いま決断しないと、これからずっとこの場所で生きていくだろう。ここが自分の生きる場所じゃないって、もうとっくに気づいてしまったのに……。僕を育ててくれたこの場所、人たち、ほんとうにありがとう。それでも僕は今夜、旅に出る。

山口 ぐっときますね。アルバム出す時に、ブックレットの巻末に載せてもらったら?

田口淳之介「HERO」
Immortal, Inc 2016年11月2日発売
初回限定盤A・B 1,389円、通常盤1,389円(税抜)
■田口淳之介は、1999年に芸能活動を開始。その後、2006年にKAT-TUNの一員としてメジャーデビューを果たす。2016年にKAT-TUNを脱退するとともにジャニーズ事務所を退社。このシングルがソロデビュー盤となる。初回限定盤A・Bおよび通常盤には、表題曲「HERO」の3種の異なるリミックスがそれぞれ収められている。
http://junnosuke-t.com/

2016.10.30(日)
文=山口哲一、伊藤涼