児童文学者の感性を豊かに育てた土壌とは? 秘話満載のエッセイ石井桃子、高峰秀子の随筆集
石井桃子は、幼年期を回想した『幼ものがたり』を《子どもの館》一九七七年四月号から翌年の五月号まで連載し、一九八一年に福音館書店から刊行した。「まえがき」にはこう書いてある。〈幼い子どもの心に残ったものであるから、あるところはきれぎれであり、また、いまとなっては、真偽の保証もできないようなものだが、それを承知で、私はこれを書きとめておこうと思いたった〉。私たちはこういう幼年期の回想記をいくつか持っている。『幼ものがたり』刊行の30年前に、幸田文が『みそつかす』を上梓した。『みそつかす』のさらに30年前には、中勘助の『銀の匙(さじ)』が単行本化された。