東大の“封印された調査”

 本書は、高学歴・高機能の発達障害の人たちの転落と再生の物語である。

 現在でも学歴は、個人の価値を示す有力なアイテムであり、労働市場においても、一般社会においても、学歴重視の傾向は根強い。これについては批判的な意見もあるだろうが、総論的に言えば「学歴信仰」は誤りではない。高学歴の人に知的レベルが高く優秀な人が多いことは事実であるし、知的瞬発力、集中力、記憶力などで優れた特性を示すことも多いからである。

 けれども高学歴の人の人生が安泰で、波風立たないものかというと、そうとも言えない。受験や就職に成功しても、それがゴールとなり、燃え尽きすりきれてメンタルダウンしてしまうケースは、以前からたびたびみられた。ただし最近の10年あまり、これまでとは違うタイプの「コースアウト」をする例を、少なからずみかけるようになった。

 彼らは中高生や大学生のこともあれば、社会人のこともある。有名校や一流企業に所属している彼らは、ある時、約束された「人生経路」からドロップアウトしてしまう。能力がないわけでもないし、勉強や仕事がこなせないわけでもない。燃え尽きたということもない。個々に状況は異なっているが、彼らは学校や会社の「しばり」や「ルール」からはみ出して「離脱」してしまう。実はこのような人たちの背景に発達障害が存在していることが少なからずあると考えられている。

 以前から発達障害を持つ個人は現在と同様に存在し、一般人として暮らしていた。けれども、彼らの「ドロップアウト」が目立つことはなかった。社会的な「規制」は細やかではなく、ダブルスタンダードも数多く存在していたからである。

 しかし、20世紀の末から社会の「管理化」「デジタル化」が強力に進行することによって、規格からはずれた個人が簡単にあぶりだされるようになった。社会や組織の「きまり」に従うことが強く求められたことによって、それができない人たちが表面に浮かび出るようになったのである。SNSの浸透がこういった事態をさらに助長している。

2025.04.04(金)