まさかこんな結末が待っているとは思ってもみなかった。
おいおいやりすぎだろう! とか、無茶苦茶だよ! とか怒る人もいるかもしれない。ちょうど昨年の秋に、文春文庫から出たジェローム・ルブリの『魔女の檻』(さらにその前の『魔王の島』)などを思い出して、これだからヨーロッパのミステリは油断できないよなと苦笑いしながらわくわくして喜ぶ人もいるかもしれない。
実は読む前に、海外の読書サイトにとんでスウェーデンの読者の感想を眺めていたら、「『シックス・センス』を見たときを思い出した」というのがあり、なんだそれは? と読む前は思ったのだが、終盤のどんでん返しを読まされると、まんざら『シックス・センス』を引き合いに出すのも悪くない気がしてくる。
ただ、ジェローム・ルブリのサイコ・サスペンスのように、全く行先の見えない展開ならいくらでも身構えて推理して読んでいくけれど、ミーナ&ヴィンセントものは、リアリズムで押す警察小説&サスペンスなので、謎解きの面白さはあっても、物語の土台を揺るがすような大胆などんでん返しはないだろうと思っていたのである。まあ、第一作『魔術師の匣』も、第二作『罪人たちの暗号』も、主要登場人物の過去や親族に大いなる謎があり、犯人もまた実に意外、ということを考えれば、読者の予想を超えるどんでん返しのひとつではあるのだが、しかしまさか本書のような掟破りに近い真相を語られると、やはりびっくりしてしまう。
本書を読み終えたあと、あわてて第一作『魔術師の匣』を手にとった。本書の最終盤でレストランのウェイターが、二年半前に店で起きた出来事を語る場面があるので読み返したのだが、たしかに下巻の一二九頁に当該の場面が出てくる。しかし、誰がこの場面の真実に気づくだろう。そうか、作者たちはそういう意味でこの場面を作っていたのかと思う。すでに一作目から作者たちは、大どんでん返しの伏線をはっていたことになる。数頁先の女性の言葉なども、本書のあとに読み返せば、ちゃんとネタを割っていたことに気付く。そのときは妄想、ありもしない言いがかりと思ったものだが違っていたのである。さらにもうひとつ、これはさすがに具体的に言及できないが、本書ではどんでん返しの伏線として、ある有名な文学作品や心理学者への言及もあり、なるほどそれなりにきちんと情報は提示されていたことがわかる。
2025.04.22(火)
文=池上冬樹(文芸評論家)