カップルが繰り返し唱えていたのは……

『このたびは本当にご愁傷様です。このようなことになるとは思わず、心よりお悔やみを申し上げます。大変残念なことになってしまって。心苦しい限りでございます。わたくしたちも心を痛めております。ご愁傷様でした。このたびは本当にご愁傷様で──』

 その瞬間、本殿の木の格子戸がかすかに「キィ」と音を立てて開きました。

 Kさんがハッと目をやると、4本の白くて異様に長い指が内側から格子戸を掴んで押し開けようとしているのが見えたのだそうです。

 その話を聞いた一同は、大慌てて車を走らせてOさんのアパートに戻ったそうです。

 後日、Oさんたちが実話怪談を聞いたというテイで大学の教授にこの話をしたところ、興味深い話を聞かされました。

 それは、放置された空き家に人が住み着くように、信仰されず、打ち捨てられた神社からは神様が引っ越してしまい、代わりに別の者が住み着くことがあるということ。

 以降、誰が言うでもなく、この話をOさんたちが口にすることはなくなりました。

 しかし、背けたOさんたちの顔を掴んで戻すように、その日以来、一行に次々と不幸が降りかかったのです。

 転んで骨折や怪我をするのは当たり前。交通事故や家でボヤが起きるといった、一歩間違えれば命に関わる出来事もありました。

『このたびは本当にご愁傷様です。このようなことになるとは思わず、心よりお悔やみを申し上げます』

 あのときカップルが言っていたことは、これらの不幸を言っていたのでしょうか。それとも、この先に待ち受けるもっと悲惨な不幸を見越してのことなのでしょうか。

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Column

禍話

2016年からライブ配信サービス「TwitCasting」で放送されている怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさんと、その後輩であり映画ライターとして活躍中の加藤よしきさんの織りなす珠玉の怪談たちは、一度聞いたら記憶に焼き付いてしまう不気味なものばかりです。