「夢みたいなこと」に込めた想い
須藤がアパートの窓から月を眺める場面は、本作のハイライトのひとつ。後日青砥から「お前、あのとき何考えてたの?」と聞かれ、須藤は「夢みたいなことだよ。夢みたいなことをね、ちょっと」と答える。
「須藤はきっと、青砥に再会するまでの自分がうんざりするほど嫌いだったと思うんです。愛を渇望した幼少期を過ごし、性や愛に関してのめり込みすぎてしまった過去の自分。そんな自分に嫌気がさし、地元で新生活を始めたことで、初恋の人・青砥と再会できました。こんな夢みたいな幸せがあるんだ、という気持ちだったと思います。
あのシーンで、須藤が本当は何を考えていたのかはわかりません。でもそれを明らかにしないのが、いかにも須藤らしいと思います。あえて感情的にならないよう、抑揚をつけずに淡々とセリフを言いました」
派手な見せ場を用意した作品が多い中、50代の恋愛と日常を描いた本作は、派手さには欠けるかもしれない。それでも、今この時代に静かな作品を届ける意味があると井川さんは考える。
「エンターテインメントを求める映画はもちろん面白いですが、現実は毎日がハイライトではありません。平凡な日常の積み重ねがあるからこそ、華やいだ時間が特別に感じるのだと思います。50年生きてこれからの人生を考える方にはもちろん、これから歳を重ねる若い世代の方にも、ぜひ観ていただきたい作品です」
杉山拓也=写真
青木千加子=スタイリング
松田麻由子=ヘアメイク
衣装協力:リュンヌ、クリヴェリ、レペット
いがわ・はるか 1976年、東京都生まれ。1999年デビュー以降、映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活躍。『樹の海』(05年)で日本映画批評家大賞と高崎映画祭で最優秀助演女優賞を受賞。近年の出演作は『ショウタイムセブン』(25年)など。公開待機作に『見はらし世代』『アフター・ザ・クエイク』(どちらも25年)がある。
INTRODUCTION
発行部数20万部を突破し、第32回山本周五郎賞を受賞した朝倉かすみによる『平場の月』(光文社文庫)を映画化。発売当初から映像化権をめぐって30社以上からのオファーがあった作品を、現代劇ラブストーリー初主演となる堺雅人と、堺とはドラマ『半沢直樹』(20年)以来の共演となる井川遥が大人の恋愛映画として描き出した。監督は『いま、会いにゆきます』(04年)、『花束みたいな恋をした』(21年)の土井裕泰、脚本は『ある男』(22年)で第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第44回ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞した向井康介。
STORY
妻と別れ、地元に戻って印刷会社に再就職した主人公の青砥健将は、慎ましく平穏な日々を送っていた。ある日、中学生時代に想いを寄せていた須藤葉子と再会。須藤は夫と死別し、今はパートで生計を立てているという。お互いに独り身となった二人は、困った時に互いに助け合う「互助会」を結成。さっそく連絡先を交換し、中学生以来離れていた時を埋めていく。自然に惹かれ合うようになった二人は、やがて未来のことも話すようになるが……。
STAFF & CAST
監督:土井裕泰/脚本:向井康介/出演:堺雅人、井川遥/2025年/日本/119分(予定)/配給:東宝/©2025映画「平場の月」製作委員会

