演劇カンパニー・ヌトミックを主宰し、様々な劇団の音楽も担当する気鋭の劇作家/演出家、額田大志(ぬかた・まさし)。高校在学中からライヴ・イヴェントを企画し、東京藝術大学入学後の2012年には東京塩麴なるバンドを結成。その音源はミニマル・ミュージックの大家スティーヴ・ライヒからも絶賛された。
音楽活動と並行して、額田は大学在学中から演劇活動も開始。大学の卒業制作として行った2015年の『それからの街』は、台詞を音符に見立てたような独創的な作風で大きな話題を呼んだ。そして、その翌年にヌトミックを立ち上げた。
過去のインタビューで額田は自身の作劇について「音楽の基本的な構造、配置、配列、音程といった原始的なものを演劇の中に導入しようとしてきた」と答えている。そんなプロセスを経てより強度を増した新作公演『彼方の島たちの話』が三軒茶屋のシアタートラムで11月22日から30日まで上演される。
ヌトミック所属の俳優の他、片桐はいりを迎えた同作では、生バンドも舞台上で演奏を行う。特に、ギターの細井徳太郎は即興畑でも頭角を現し、SMTKなるバンドでも活躍中の鬼才。両者の化学反応も見ものである。「新しい日本語の音楽劇を作りたい」と言う額田に話をきいた。
» 東京藝大音環から演劇へ「脚本が譜面のようだと思った」
» 役、時間を自在に行き来できる脚本に
» 演劇と文学は似たものだと思う
» 新しい日本語の音楽劇をやりたい
東京藝大音環から演劇へ「脚本が譜面のようだと思った」
――額田さんは東京藝術大学の音楽環境創造科(以下、音環)の作曲科・作曲専攻出身ですね。音環は02年に設立された学部ですが、ここに行ったのはなぜ?
高校生の時はミュージシャンになって作曲をやりたいと思っていたんですけど、クラシカルな方じゃなくて、現代のポップ・ミュージックに興味があって。だったら音環かなと。西洋音楽を学ぶためには、音環ではない上野キャンパスの学部にいくことがほとんどで、坂本龍一さん、King Gnuの井口理さん、石若駿さん、小田朋美さん、角銅真実さんなどは、上野の校舎に通っていました。音環は北千住にキャンパスがあり、カリキュラム的には、音響学や録音を学べたり、マネジメントの授業もあって、当時は舞台芸術の講義もありましたね。
――でんぱ組.incのプロデューサーだったもふくちゃんも音環出身ですね。
そうですね。あと、振付家の酒井幸菜さん、odolの森山公稀君、WONKの江崎文武君とかも。
――音環では、入学後のオリエンテーションでチェルフィッチュの『三月の5日間』という、日本の現代演劇のエポック・メイキングとなった作品の映像を見るんですよね?
そうです。そこから演劇に興味を持ち始めて、そんな時に、(現代口語演劇の始祖のひとりである)演出家の平田オリザさんの演出論に出合ったんですよね。図書館で平田オリザさんの本を読んで、影響を受けました。例えば、台本について「あの」とか「えっと」とか「うん」とか、単独ではあまり意味をなさない言葉を脚本に意図的に入れこむという話が、面白かった。あと、オリザさんの台本って上下2段組みになっているんですが、そこに言葉を配置していくやり方が、作曲に近いような感覚があったんですよ。脚本が譜面のようだと思いましたね。
――藝大の卒業制作で初の外部公演となった『それからの街』(2015年)は、批評家の佐々木敦さんが絶賛したこともあって、評判を呼びました。作曲科の学生の卒業制作が演劇作品というのも、そうとう面白いですけど。
最初期は演劇をやっていても音楽的な要素が最優先だったんです。音楽を聴いていてノるような感覚で上演ができるといいなって。演劇ってストーリーとか台詞で展開していくことが多いけど、それをなんとか音楽の力で進められないかと思っていました。例えば、「その」っていう台詞を「その、その、その、その」って繰り返し何度も言っていくとか。
――ああ、繰り返すことによって台詞の意味が漂白されて音(おん)になっていく。
そう、そうです。
