「自分はまだ何も知らない」という意識を持つように

――かつて他のインタビューで「学べる環境に身を置くことが大切」と語られていましたが、今も意識して取り組まれていることはありますか?

 特別に何かを学んでいるわけではありませんが、「自分はまだ何も知らない」という前提を常に意識するようにしています。これまで培ってきた価値観や、今身を置いている環境はすごく狭いことを頭に入れていないと、新しいことを拒否してしまいそうなので。

 もういい歳になったんだからこそ、いろんなことを柔軟に受け入れて、学び続けなければいけないと思っています。歳をとると、自分を守るためなのか、心地よくいるために自分の領域を狭めてしまいがちです。そうならないように意識的に視野を広げようと努力している最中です。

――どうしてそんなに自然体で、謙虚でいられるんでしょう?

 そんな立派なものじゃないですよ。いまの若い世代の子はみんな才能があってのびのびやっているので、見習うことが多いですし、勉強になります。今作の三宅監督も僕よりずっと下の世代ですが、才能に溢れています。ちょっと切ないけど思わず笑えるようなエピソードを絶妙なバランスで散りばめていて、本作を「人生ってなんだかんだ面白いよね」と感じさせてくれる作品に仕上げている。完成したものを観て、さすがやなぁと改めて感じました。

 それに比べて自分は感情がコントロールできないこともあるし、何もできてないなって感じることも多い。なので自分を責めてしまうこともあるんですが、責めてばかりじゃ良くないですし、ちゃんと褒めてあげようとは意識しています。

――先ほどの「よくやっている自分を認めてあげる」というお話に繋がりますね。

 そう。自分のいる世界を広げていくためにも、まず自分を認めてあげることは大切なのかな。

堤真一(つつみ・しんいち)

1964年7月7日生まれ、兵庫県出身。『弾丸ランナー』(96/SABU監督)で映画初主演を果たし、2000年放送のドラマ『やまとなでしこ』で幅広い世代の支持を獲得する。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞ほか国内の映画賞を多数受賞。本年は、NHK 連続テレビ小説『ばけばけ』、舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』に出演。

『旅と日々』

監督・脚本:三宅唱
原作:つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」
出演:シム・ウンギョン 堤真一 河合優実 髙田万作
11月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー

配給:ビターズ・エンド
©2025『旅と日々』製作委員会

https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/

【STORY】
大学の授業で、李が脚本を書いた映画を上映している。上映後、学生から映画の感想を問われた李は、自分には才能がないと思ったと答える。冬になり、李は雪に覆われた山奥を訪れ、おんぼろ宿にたどり着く。宿の主人・べん造はやる気がなく、暖房もまともな食事もない。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出す……。