黒澤明監督の名作『醉いどれ天使』が、現代に舞台としてよみがえります。主演を務めるのは北山宏光さん。令和の時代に、戦後の人々の息づかいをどう演じるのか。「生もの」と語る舞台の魅力を、丁寧に、そして楽しげに語ってくれました。
三船敏郎さんから続くバトンを自分なりに咀嚼したい
――『醉いどれ天使』は、戦後の闇市を舞台に、結核を患う若きヤクザ・松永と、彼を救おうとする医師・真田の、ぶつかり合いと再生を描いた黒澤明監督の傑作です。その舞台化、そして主演の松永役を演じることが決まったときの率直な気持ちを教えてください。
振り返ってみたら、舞台で主演を務めるのは6年ぶりなんです。自分にとって転機になったタイミングでこの作品に出演のお話をいただいたのは、とても嬉しかったです。歴史ある作品に携われるというのは、シンプルに光栄なことですし、戦後を舞台にした物語を令和の時代に演じること自体にも強く惹かれました。
映画で主演を務められた三船敏郎さんから受け取ったバトンを、2021年版の舞台を経て受け継ぎ、自身の解釈と身体を通して表現したいと思っています。僕なりに咀嚼できるのも楽しみです。
――脚本を手がけたのは、数々の演劇賞に輝く蓬莱竜太さん。台本を読んで、まずどんな印象を受けましたか?
キャストがとてもいきているなと感じましたし、改めて、舞台にとって台本って本当に大切なんだなと実感しました。セリフがすっと体に入ってくるというか、どこにも違和感がないんです。だからこそ、稽古が始まってすぐに、みんなが自然と体を動かせたんだと思います。
――稽古の手応えを感じている今、作品を観客に披露する日が待ち遠しいのでは?
もちろん早く観てもらいたいと思うこともあるんですけど、早く完成して内容が固まりすぎちゃうと伸びしろがなくなってしまうこともあって。時間があればいいものができるというわけでもないですし。こればっかりは難しいですね。フレッシュさと冷静さ、そしてほどよい緊張。これらの要素のバランスがとれているのが一番いいんだと思います。
――北山さんにとって、舞台の魅力とは?
やっぱり「生もの」であることですよね。同じ公演ってひとつとしてないんです。「今日すごくいい芝居ができたな」と自画自賛したくなるような日にこそ演出家さんからのダメ出しが多かったり、「今日は演技のタイミングがずれてしまったな」という日に褒められたり。今日、「テンポよかったんじゃない?」と感じていても、上演時間を5分オーバーしてしまっていることもありますから(笑)。「生もの」であるからこそ、演じている自分さえ把握できないことがある。予想できないところも魅力だと思います。
――長く舞台に立たれている北山さんでも、予想外の瞬間があるんですね。そうした「生」の瞬間を魅力だと感じるようになったのは、いつ頃からですか?
コロナ禍を経て、改めて舞台やコンサートがどれほど尊いものかを感じました。観客のみなさんに直接観てもらえることって、当たり前じゃないんですよね。すごく貴重なこと。だからこそ、そのライブ感を、僕たちだけでなく、お客さんにも一緒に楽しんでもらいたいです。
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- 文=高田真莉絵
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=大島智恵美
スタイリング=柴田 圭 - INTERVIEWEE
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北山宏光
