現役アイドルで大学生のかれんさんに、朝井さんから一言

——『イン・ザ・メガチャーチ』は、視野を狭くして没入したもの勝ち、とは一概には言えない印象を受けました。実際のところ、朝井さんはどう思われているのでしょうか。

朝井 こういう質問はインタビューでよくいただくんですけど、作者自身の考えはあまり言わないようにしています。私は特に今作のような小説を書くときに、「両義性」を大事にしたいって気持ちがあるんです。今の私は、特定の人物に感情移入してその成長を見守ってもらいたいとか、そういうことを思っていなくて、“今この時代の空気感”をそのまま文章として残す作業に興味があるんですね。正直、本の意義などは度外視して書いている部分が大きくて、我ながらただの自己満足だなと呆れるのですが……空気感の文章化を実現するためには、思想が異なる人たちや一つの習性の両義性を同じ解像度で描く作業が大事だと思っています。特に今回はその点を意識しながら書いたので、作者がどの考えを推奨しているのかが分からない方がいいな、と。

かれん 私も読みながら「朝井さんはどの考えなんだろう?」って考えていました。大学生の解像度も高くて、「すごい!」って。

朝井 危ない! 大学生の描写、不安だったんです。安心しました(笑)。

かれん 中でも、大学生の澄香ちゃんとは自分自身を重ね合わせることが多かったです。「自分が学びたいこと」「将来やりたいこと」について、私もよく考えるので。

朝井 今、かれんさんと同年代の方々は就活の時期ですよね。特にかれんさんは現役アイドルでもあり、阪大生でもあり……選択肢が多いからこそ、今がすごく「岐路」ですよね、きっと。

かれん はい。学生時代がもうすぐ終わりに近づいていて、でも私にはアイドルの仕事もあって……。でも、選択肢が多いからこそ悩めるから、それはありがたいことだと思いました。

朝井 私が21、22歳のときは、「新卒の期間に就活を終わらせないとだめだ」「留年なんて絶対だめだ」みたいな強迫観念が蔓延していたと記憶しているんですけど、今になって思うのは、20代の数年間って、どんだけでも迷走してもよかったなー、ということ。1~2年間、考える期間を延ばすのって全然ありだったよなあと思います。なのでフレキシブルに構えて、「未来の方が来い!」というマインドでいてください。

かれん 結構悩んでいたので、嬉しいです(笑)。ありがとうございます!

朝井 私は今36歳で、平成の影響をすごく強く受けているんですね。だから自分が書いている作品も、結局は平成らしさがすごく出ていると思う。

 でもこれから、かれんさんの世代のアイドルやファンの方々が、私が思いもつかないような関係性を築いたり、文化を育んでいくんだと思います。『イン・ザ・メガチャーチ』はきっとすぐに“過去の空気感”になって、リアリティという意味で小説として通用しない世界にすぐになると思う。そんな変化を見て、びっくりする側に回るのが楽しみです!

〈プロフィール〉

朝井リョウ 1989年5月31日生まれ。岐阜県出身。小説家。2009年、早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第148回直木三十五賞受賞。エッセイ『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』『そして誰もゆとらなくなった』(すべて文春文庫)の“ゆとり三部作”が今回のバズにより増刷を重ねる。最新作は『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)。

 

かれん(カラフルスクリーム) 2004年12月12日生まれ。2020年8月より研修生、12月よりカラフルスクリーム正規メンバーに。2025年6月「クロネッカーの青春の彩り」で徳間ジャパンよりメジャーデビュー。大阪大学在学中。

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