10月は「ピンクリボン月間」。女性にとってもっとも罹患率の高いがんである乳がんの早期発見や知識の啓発だけでなく、術後の生活やサポートにも目を向ける機会となっている。

 日本で毎年新たに乳がんの診断を受けるのは、約9~10万人。そして、罹患した人のおよそ半数が、がん細胞とともに乳房の皮膚や乳頭などを全て切除する乳房全切除(乳房全摘)術を受けているという。

 自分ごととして考えたとき、バストを失う喪失感とどのように向き合えば、乳房全切除後の生活をより自分らしく生きていけるのか。そのための選択肢の一つとして、今、「着脱式の人工乳房」について知っておきたい。


日本で乳房再建を選ぶ人は1割強。少ない理由は……

 乳房全切除術を受ける際、選択肢として挙げられるのが「乳房再建」をするかどうか。乳房再建の代表的な方法は2種類あり、腹部や背部の組織を胸に移植する「自家組織再建」と、1回目の手術でエキスパンダー(組織拡張器)を装着して通院しながら段階的に皮膚や筋肉を伸ばし、2回目の手術でインプラントと呼ばれる人工乳房を装着する「インプラント再建」というもの。

 しかし、前者は腹部などにも傷跡が残ること、後者は半年以上の期間と2度の手術が必要なことからハードルが高いと感じる人も多いようで、日本で乳房再建を選択する人は乳房全切除術を受けた人の1割強とかなり少ないのが現状だ。

 ほとんどの人が乳房再建はせず、ブラジャーにパッドを装着するなどして身体のバランスを取ったり、シルエットを整えたりしているという。

 パッドを装着する方法はもっとも手軽ではあるものの、動いている間にズレる、ヨガやピラティスなど体を大きく動かすときに不安、温泉やプールのときに困るといった声も聞こえてくる。

 そんな中で近年、注目を集めているのが「着脱式の人工乳房」という選択肢。ヌーブラのように皮膚に貼り付けて使うシリコン製の人工乳房で、より自然な見た目と扱いやすさを兼ね備えている。

2025.10.18(土)
文=今富夕起
写真=深野未季