マレー半島とボルネオ島北部にまたがる常夏の国、マレーシア。実はこの国、知る人ぞ知る美食の国なのです。そこでこの連載では、マレーシアの“おいしいごはん”のとりこになった人たちが集う「マレーシアごはんの会」より、おいしいマレーシア情報をお届け。多様な文化が融け合い、食べた人みんなを笑顔にする、とっておきのマレーシアごはんに出会えますよ。

インドにチャイあり。マレーシアにテタレあり

 ぶくぶくと表面を覆う泡。渋みのなかに広がるリッチな甘み。これぞ、マレーシア人がこよなく愛する国民的ドリンク「テタレ」(テレビなどに手だけ出演する「手タレ」ではありません!)。甘いミルクティーです。屋台、レストランを問わず、ローカルの料理を扱っている店なら必ずメニューにあり、毎日飲むというマレーシア人も決してめずらしくありません。

見事な泡立ち! ここまで美しい泡を立てるには熟練の技が必要(技の様子は後ほどの写真を参照)。
茶葉は自国で栽培。できるだけ濃く煮出して茶葉の渋みを際立たせ、牛乳ではなく、練乳(加糖クリーマーのときも)を加える。インドのチャイに似ているが、スパイスは加えない店が多い。

 私もマレーシアに行くと、毎日とは言いませんが、3日に1回はかならず飲んでいます。甘いのですが、マレーシア料理によく合うんですよね~。とくに、ココナッツミルクで炊いた「ナシレマッ」やカレー系料理は、テタレがあるのと無いのでは大違い。唐辛子の効いたマレーシア料理とまろやかな甘みの「テタレ」は無敵のマリアージュ。食欲のない暑い日でも、辛い料理~甘いテタレ~辛い料理~甘いテタレ、という(魔の)無限ループで、食がぐんぐん進むのです。

カレーソースをつける「トーサイ」と「テタレ」のコンビは、ランチタイムの定番。
マレーシア版モーニングの「カヤトースト」にもテタレはよく合う。

 さて、「テタレ」という名前。「テ」は紅茶、「タレ」は引くという意味の現地語です。なぜこのような名前かというと、テタレの淹れ方に理由があります。店の人が両手にそれぞれ1個ずつコップを持ち、「テタレ」を何度か移し替えるのですが、その動作が紅茶を上に“引く”ように見えるので「テタレ」。カップを移し替えることで、ワインのデカンタージュのように液体に空気が混ざり、舌触りはスムーズに、そして味はまろやかになります。

 余談ですが、「テタレ」を愛しているマレーシアでは、全国各地で「テタレ」の淹れ方を競う選手権やパフォーマンスショーが開催されています。絶対に真似できないプロの技の数々!

厨房で「テ」を「タレ」している様子。上から勢いよく移し替えることで、ぶくぶくと泡が立つ。
マレー半島東海岸の町コタバルで開催されたテタレショー。それぞれの屋台で、テタレの技を職人が披露。背筋をぴーんと伸ばし、高々と揚げられた右手がすごい! (写真提供:千晴さん)

※このテタレの技を2ページ目に動画で紹介しています。カメラに照れるハニカミ職人が次々に泡を立てていく様子は必見です!

2016.02.05(金)
文=古川 音
撮影=古川 音、三浦菜穂子