直球の歌詞は女子高生版・西野カナ?

山口 僕が思ったのは、「変わることと変わらないこと」があるなと。

伊藤 どういう意味ですか?

山口 「ツイキャス」という最先端のツールを使ってファンを増やしていること、これは新しいこと。一方で作品性というか、音楽的なプロデュースは、まったくもって王道。「人気の出る曲って昔から変わらないんだな」って。僕がデジタル時代の音楽ビジネスに携わる人のコンセプトとして「ニューミドルマン」(外部サイト) を掲げているんですけど、まさにそんなことだなと。音楽の普遍的な良さと新しいツールの意味を知って使いこなすこと、両方が必要ですね。

伊藤 なるほど、そうですね。

山口 歌詞があまりに「直球」なのには、作詞家でもある伊藤さんとしては、思うところがあるのではないですか?

伊藤 西野カナが出てきたときに、その詞の世界観を大人たちが“等身大日記ソング”とネガティブに言っていたのを思い出します。“等身大”っていうのは彼女たちにしかできない表現なんだから、大人たちに正解なんて語ることはできない。西野カナは現役大学生だったけど、それができるカリスマ女子高生シンガーが現れた、そんな感じですね。

山口 そうですね。女の子の“等身大”に男は敵わないなって改めて思います(笑)。その女子高生の歌詞から、あーだこーだ言えない大人の伊藤さんは、どんな妄想を広げるんですか?

伊藤 気軽に話ができるクラスメイトの一人、そう思っていた彼女に友達以上の感情はなかった。だから告白されたときは驚いたし、悪い気もしなかった。ただ、女子の悪い癖で、あることないこと妄想を膨らませ、次々と伝言ゲームで“ウワサ2人”を楽しむ。すぐにクラス全体が彼女の気持ちを知り、みんなが静かにヒューヒューと呟く。このパンデミックには迷惑していた。

 オレとしては彼女と付き合うとか全く考えていなかったし、誰にも言ってなかったけど、心の中では隣のクラスの女子に“片思い”を巡らせていた。だけどもう、妄想をはらませたウワサは隣のクラスまで届いているだろう。取り返しのつかないような媒介をして。

 もう半年、そのうち諦めるだろうと黙って耐えてきた。それなのに、なぜか学校中でこんな新しいウワサがたっていた。来週にせまった彼女の誕生日にオレが“告白返し”をする。たしかにオレの誕生日には、彼女から毛糸の塊をプレゼントされ、彼女を傷つけまいとそれを受理した。が、プレゼントも告白も、お返しの義務はないはずだ! だけど「告白返し」をしなければ学校中から“イケメンでもないくせに何様?”のレッテルを貼られるだろう。いま、気軽に話せるクラスメイトは一人もいなくなった。

 彼女の恋する気持ちに罪は無い。そうなんだろうか?

 数学の授業を聴きながらそんなことを考えるが、数式と理性と憎しみと自分を無力だと思う感情がグルグル回って堂々巡り。目が回ってしまい、机にうつぶせになる。先生の声がフェイドアウトしてゆき、瞼のなかの真っ暗闇ではパチパチと火花が躍り出す。いまは寝てしまおう、そして目が覚めたら彼女のことを心から好きになっていればいい……そうしよう。

山口 やっぱり、男は女の“等身大”には敵わないですね(笑)。

井上苑子「だいすき。」
ユニバーサル ミュージック 2015年11月4日発売
通常盤[CD]1,111円、数量限定マフラーセット盤[CD+マフラー+サイン入りフォトカード]2,407円(税抜)
■井上苑子は1997年生まれ、兵庫県出身の17歳。2015年7月にミニアルバム『#17』でメジャーデビューを果たしたばかり。リード曲「大切な君へ」は、各種動画サイトで爆発的な再生数を記録した。9月に公開された映画『私たちのハァハァ』では主演を務め、劇中ではクリープハイプのカバーも披露している。本作は、メジャーからの初のシングル。
■「だいすき。」作詞・作曲/井上苑子、中村瑛彦 編曲/久保田真悟(Jazzin' park)
■オフィシャルサイトURL http://www.inoue-sonoko.com/

【動画サイト】
「だいすき。」

URL https://www.youtube.com/watch?v=ReUMQanp6e0

2015.10.30(金)
文=山口哲一、伊藤涼