2025年11月、由比ガ浜から鶴岡八幡宮へと続く参道・若宮大路沿いに、「MAISON CACAO(メゾンカカオ)」新本店がオープン! 3階建ての洋館一棟をリノベーションした、ブランド史上最大規模となる旗艦店です。チョコレートの体験をデザインすることをテーマに、それぞれのフロアで異なる世界観と驚きが楽しめる、注目の新スポットとなっています。

 「メゾンカカオにとってブランドづくりは、旅をするようなものであり、この新本店は新たな旅の出発点」と語る、創業者の石原紳伍さんに話を聞きました。


コロンビアで出合ったカカオを巡る幸せな“日常”

――まずは「メゾンカカオ」の原点として、創業の経緯をお聞かせください。

 僕はずっと、“文化を作る仕事がしたい”と思ってきました。大学卒業まで10年間、ラグビー一筋だったのですが、リクルートに入社してリベラルアーツを学ばせてもらったことで、自分自身の暮らしの豊かさよりも、自分自身が生きていた証として、世のため、人のために何が残せるのかを考え始めました。

 そして、日本には世界トップクラスの文化が根付いているにも関わらず、僕ら自身が高度経済成長とともに利便性ばかり追求し、本当の意味での心の豊かさやそれまで大切にしてきたものを置き忘れてきてしまったのではないか、と思うように。それは本当にもったいないな、と思いました。

 そんな葛藤を抱えていた時に訪れたコロンビアで出合ったのは、日常の中でカカオを通じて生産者と生活者が幸せになっている光景です。

 街にはカカオを積んだトラクターが行き交い、人々は至るところでチョコレートドリンクを楽しんでいて、街じゅうがチョコレートの香りに包まれていました。

 「ああ、文化や心の豊かさはこうやって育つんだな」、と。それはきっと、江戸時代に醤油や味噌を隣同士で交換したりして人々が繋がり、いろんなものが地域で循環していた日本も同じだったはず。

 「これだ! こんな風に日常的にチョコレートを楽しむ文化を日本で作りたい」という気持ちが湧き上がり、やるならば文化都市である鎌倉で挑戦したい、と思ったんです。

――では、「メゾンカカオ」が目指すもの作りとは?

 「メゾンカカオ」で大切にしているのは“素材を生かす”ということです。

 カカオは生のフルーツであり、チョコレートはそれを使った発酵食品であって、本来は“鮮度”をうえの概念として持つべきものです。ところが、歴史的にカカオ生産国と加工する国が分かれ、遠く離れていたことで、その概念がある種、置き去りになってきてしまった状況があります。

 でも僕たちはコロンビアに自社農園を開いてカカオを栽培し、輸送することなく発酵や乾燥、焙煎などを行い、2週間以内でチョコレートにできる。カカオ本来の香りを引き出すためには、この“鮮度”が非常に大切です。

 また、チョコレートの味作りにおいても、これまでは砂糖を加える、ミルクを足す、ジャンドゥーヤを加えるなど、他の味を足していく考えが多かったと思うんですよね。でも、鮮度が良いものを使えば、味付けよりも“素材そのものの力をどう生かしていくか”という考え方になる。ときに砂糖の量を減らし、代わりに果物を加えて甘みで補ったり、加える油脂分を減らして水分量を上げることで口溶けをよくしたり。つまりは、和食と同じ考え方ですね。

 僕の出発点がカカオ農園なので、アプローチの仕方が違うというところが、「メゾンカカオ」のプロダクトの違いなのかな、と思います。

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