芝居はチーム戦。相手の演技が良くなれば、自分も良くなる
――本作では、兄の涼と、事故で亡くなった弟・恵という双子の兄弟を演じています。どのように演じ分けをされたのでしょうか。
これは監督の演出でもあったのですが、「涼の場合はこう、恵の場合はこう」と明確な区別はしませんでした。それに僕自身も、技術的に差をつけるより、二人が生きてきた人生そのものを表現したいと思っていました。
一卵性双生児であっても、「須永涼として」「須永恵として」それぞれ生きてきたら、考え方やクセはどこか変わってくるのが当然だと思います。頭で考えてそれを表現するのではなく、それぞれが生きてきたなかで選んできたことを、自然と仕草や表情に出せるよう、心がけました。
――たとえば、それは具体的にどのような仕草や表情ですか?
そうですね……。恵は、好奇心旺盛でなんでも器用にできるタイプなので、友達も多いだろうと考えたんです。そうすると、人の輪の中心になることが多かっただろうから、自然とリアクションがオーバーになって、キビキビ動けました。
一方、涼は何事もコツコツ練習を重ねてできるようになるタイプなので、自然と動作が少しゆっくりになりました。話すトーンも低めで、静かに話すよう意識しました。
――なるほど。相手役・亜子を演じた福原遥さんとも、「自然な演技」ができるよう、話し合いなどをされたのでしょうか。
福原さんは事務所の後輩で、お互いのマネージャーさん同士も顔見知りなんです。普段はそこまで相手役の方と一緒に役作りをすることはありませんが、今回は、よりよいお芝居を目指して、電話で台本の読み合わせ練習などもしました。
芝居はチーム戦なので、相手の演技がよくなれば自分の演技もよくなります。でも逆に、相手が悩んでいると、芝居の歯車がかみ合わなくなってくることもあるので、小さな悩みのうちに話し合って、なるべく早めに解決できるように心がけました。
恋愛は人間ドラマだと思う
――行定(勲)監督からは、どのような演出がありましたか。
基本的に監督からは、自由に演じていいと言っていただきました。本作は恋愛映画ですが、監督も僕も「恋愛は人間ドラマ」だというところでは考え方が一致していたので、感じるままに演じても受け入れてもらえました。
ただ、一場面だけ、細かい指示を受けたシーンがありました。サプライズで誕生日を祝うシーンなのですが、クラッカーのテープを少し身体にかけたいけれど、距離感が難しくて、このシーンは何度も撮り直しをしました(笑)。
――それは必見ですね(笑)。完成した映画をどのようにご覧になりましたか。
前半は謎が多いのですが、物語が進んでいくにつれ、少しずついろいろな違和感の“正体”が明かされていくので、一度観ただけでは終わらない面白さが楽しめる作品だと思います。
恵のフリをしている涼と亜子が“外来語禁止ゲーム”をするシーンは、自分で演じていながら胸が締めつけられました。表面上は仲のいい恋人同士そのものですが、実は……、というシーンなので、じっくりと観ていただきたいですね。本作がたくさんある「楓」のイメージのなかのひとつに組み込んでいただけたら嬉しいです。
――撮影の裏話もあればお聞かせください。
スピッツさんの「楓」には、「スピカ」というカップリング曲があります。実はその「スピカ」という名前は、恵と(宮沢)氷魚さんが演じた梶野が共同経営している会社の社名にもなっているんです。映画の中で、会社のドアに一瞬社名が出てくるので、ぜひ見つけてください(笑)。
福士蒼汰(ふくし・そうた)
1993年5月30日生まれ、東京都出身。2011年に俳優デビュー後、「仮面ライダーフォーゼ」でドラマ初主演。23年「THE HEAD」Season2で海外作品デビュー。アクターズ・ショート・フィルム4「イツキトミワ」(24年)では、初監督にも挑戦した。公開待機作に2026年1月13日放送スタートのドラマ「東京P.D. 警視庁広報2係」(フジテレビ系)や2026年1月16日配信開始の韓国ドラマ「恋の通訳、できますか?」(Netflix)などがある。
衣装クレジット
ジャケット5万3900円、パンツ3万8500円/ともにマーカ(パーキング☎︎03-6412-8217)、靴29万400円/ジョンロブ(ジョン ロブ ジャパン☎︎03-6267-6010)、その他スタイリスト私物
『楓』
須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、天文の本や望遠鏡に囲まれ、共通の趣味を分かち合いながら穏やかに暮らしていた。しかしある朝、亜子を見送ったあと、恵は眼鏡を外し、髪を崩す。実は彼は“恵”ではなく、その双子の兄・須永涼だった。1ヶ月前、ニュージーランドで事故に遭い、恵は帰らぬ人となった。ショックで混乱する亜子の前に姿を現した涼を、彼女は恵だと思い込む。真実を言い出せないまま、涼にとって亜子は、次第に何より大切な存在へと変わっていった。一方、亜子にもまた、誰にも打ち明けられない“秘密”があった。
出演:福士蒼汰 福原遥 宮沢氷魚 石井杏奈 宮近海斗
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
配給:東映/アスミック・エース
©2025 映画『楓』製作委員会
12月19日(金)全国公開










