はっぴいえんどのみんなで雑魚寝をしたお寺

 ここは浄土宗の開祖・法然上人ゆかりの寺。一六六二年からここにある。大きな数珠を廻す「大念珠操り」が有名で、定期的に開催される手作り市や古本市も市民に親しまれている。

 この日の境内はしんと静まり返っていた。大きく古びた本堂を松本さんがのぞき込む。

「そうだ、ここだ。この本堂に泊まった。学生たちがぼくらを呼んでるから、ホテル代なんて出せない。だから、住職が協力してくれたんだと思う。板の間にみんなで雑魚寝をしたんだ。ぼくも細野さんも、みんなそれぞれガールフレンドを伴って」

 二〇二五年五月二十二日。ロームシアター京都で行われた「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」の最優秀楽曲賞のプレゼンターを務めた松本さんは、壇上でこうスピーチをした。

「一九七〇年に、はっぴいえんどで、この会場のこのステージで演奏しました。それから五十五年。詞や曲をつくるのは無から有をつくり出すもので長く険しい道でしたが、振り返ってみるとわりと楽しい日々でした。今日集まった若い才能の皆さん、この賞がゴールではなく新しいスタートになりますように」

 客席には開会のスピーチを担当した細野さんも座っていた。

ロームシアター京都

住所 京都市左京区岡崎最勝寺町13
https://rohmtheatrekyoto.jp/

百万遍知恩寺

住所 京都市左京区田中門前町103
http://chionji.jp/

松本隆(まつもと・たかし)

1970年にロックバンド「はっぴいえんど」のドラマー兼作詞家としてデビュー。解散後は専業作詞家に。手がけた作品は2,100曲以上にもおよぶ。

松本隆と風街さんぽ

定価 1,650円(税込)
文藝春秋
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Column

松本隆と歩くぼくの風街

「ねえ、ぼくの"風街"めぐりをしてみない?」――松本隆さんがあるとき言った。作詞家・松本隆さんの「風街」とは、松本さんの頭の中に存在する街だ。しかし、その「風街」は松本さんの人生と創作活動に深く結びついている。「松本隆と歩くぼくの風街」では、松本さんとともに「風街」を巡る旅に出かけ、その足跡をたどっていく。