坪田侑也「放送部には滅ぼせない」(「小説新潮」10月号)

 体育祭の準備に浮き立つ時期の高校を舞台とした青春小説である。主人公の村井航成が属している放送部には、三年生の彼と二年生の芝以外に活動している部員がいない。弱小文化部を描いた青春小説には好きなものが多いので期待して読んでいると、意外なことが起きる。体育祭BGMのリクエストを受け付けるための箱を設置していた。その中に、体育祭が憂鬱なので滅べばいい、という内容の匿名投稿が入っていたのだ。穏やかではない内容のため、航成たちは投稿者が誰かを調べ始める。

 ミステリーとしての完成度が高く、伏線埋設の技巧が素晴らしい。坪田は十五歳で書いた『探偵はぼっちじゃない』(KADOKAWA)で二〇一九年にデビュー、学業と並行して小説を書き続けてきた。若年ながら安定した実力の持ち主である。

宮下奈都「(とんび)の娘」(「オール讀物」11・12月号)

 主人公の〈私〉、戸田未来が高校から帰る途中で嫌がらせをされる。加害者たちは、彼女が王の娘だから、という理由で行為を正当化しようとするのである。王とは何者かということは半ばブラックボックスに入った形で話が進む。どうやら反社会的と見なされる存在らしい。その娘は何をされても文句は言えないはず、という社会の敵叩きの図式なのである。しかし〈私〉には自分が王の娘であるという心当たりがない。

 真田くんというクラスメイトが登場し、王の娘でないのなら疑いは晴らしたほうがいい、と勧めてくる。しかしそれは本当なのか。なぜ被害者側が身の証しを立てなければならないのだろうか。本作で宮下は、この社会に(まか)(とお)っている正義を名乗る行為の危うさを描いた。しっかりと前を向いて生きようとする主人公に勇気づけられる読者は多いだろう。

坂崎かおる「花泥棒」(「小説推理」12月号)

 坂崎は短篇集『箱庭クロニクル』で第四十六回吉川英治文学新人賞を授与されるなど、二〇二五年現在、最も注目されている作家の一人だ。SF・ファンタジーを得意領域とするが、それに留まらずに幅広く、読者の心を捉える物語を書き続けている。

2025.09.23(火)