【相談】両親の死を20年経っても乗り越えられない

【お悩み】
20年以上前に、両親が続けて病で亡くなったことが、いまだに受け止められず、毎日のように亡くなった日のことを鮮明に思い出してしまいます。早すぎたものの、親が先に亡くなることは自然な順番なのに、悲しみが無くなりません。3年経てば、5年経てば……と日々を過ごしてみたものの、どうして私と妹を置いていってしまったのか、生きていたら私の息子をどんなにかわいがったろうと、考えても仕方のないことを考えてしまいます。
(41歳・女性)
誤解されがちですが、死者は「記憶」ではなく「実在」です。目に見えず、話すこともできないけれど、生者とは別の形で、現に存在します。生々しくて当たり前。以前、90歳をゆうに超えたおばあさんが、四国からご家族と水子供養に来られたことがありました。70~80年前に亡くした子どもへの思いが、その方を恐山まで連れてきた。
死者との関係性によってはただの「記憶」になるケースもありますが、自分の実在に決定的な意味を与えた人は、どれだけ時間が経ってもその人の中に実在する。だから、無理に忘れようとせず、生きている人とは別の付き合い方を見つければいい。それを仏教では「弔い」と言います。弔いに大事なのは、思い出すこと。そして、死者との関係を誰かに語ること。
死者について語ることを躊躇する人もいますが、感情は言葉にして確認する作業を繰り返さねば耕されない。言葉にせず、自分の中で循環させるだけでは、いつまでも悲しいままなので、誰かに思いを聞いてもらうといいですね。
2025.08.12(火)
文=井口啓子
写真=平松市聖
CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。