ヤバイ役も超気持ち悪くこなせる演技力

 『おむすび』もそうだが、緒形直人さんは真面目そうな雰囲気ゆえか、深刻な役が多い。2024年4月クールの日曜劇場『アンチヒーロー』なんて、冤罪の死刑囚という超ヘビーな役だったなあ。緒形さんの苦悩の演技は見ているこちらも痩せそうなくらい素晴らしかった。

 ただ、少し前、松本清張ドラマスペシャルの『顔』で、ものっすごくイカレた暴露系の動画クリエイター役をされていた。あれは目玉が飛び出るほどビックリした。

「こっ、このヤバイ帽子の男、緒形直人さんなのかい?」

 と叫んだものである。緒形さんはデジタル系より農場系の方なのよ。ネットとか全然使いこなせない感じでいてほしいのよ! ミスキャストにもほどがあるってのよ!

 ところが緒形直人さんは、大阪で吠える私など軽やかにスルーし、あのやさしい笑顔を器用に歪め、しっかり超気持ちワルい暴露男になっていた……。

 思い返せば『64』でも狂気の犯人役をしていたし、意外なほどフレキシブル。緒形拳さんが演じていた『ゲゲゲの鬼太郎』のぬらりひょん役も、リメイクが制作された暁には、ぜひ受け継いでほしい。

まだまだナベさんの活躍は続く!

 とはいえ、文芸作品顔の緒形直人にはやっぱり歴史もの、そしてスクリーンがよく似合う。2025年1月公開の、音楽家・中山晋平の生涯を描いた映画『シンペイ 〜歌こそすべて』では、島村抱月役を演じている。昨年からチェックしていたのを思い出し、そやそや観に行こうと公式サイトを開いた。すると、大阪での上映は終了していた。エエッ、上映期間が14日間って短くない(泣)?

 まさかの見逃し。マメに劇場情報をチェックしなかった己を責め、ハンカチ噛み噛み予告編ロングバージョンを繰り返し再生している。豪快な緒形直人さんの演技とヒゲ姿が素晴らしいが、主演の中村橋之助さんも素敵だし、内容自体がとても良さそうだ。予告で泣ける。観た方、できれば感想を聞かせてください。そしてサブスク関係の方、できれば配信を急いでください……。

 とにもかくにも『おむすび』では、第20週「生きるって何なん?」でナベさんが活躍。その姿を見守ろう。彼は、物語をやさしくじんわりと包み込む。立ち直るパワーと最強の笑顔をもって、いつだって幸せに間に合う、と思わせてくれる。

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田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2025.02.18(火)
文=田中 稲