永作博美×蓮佛美沙子 名優がうみだす一風変わったシスターフッド

 新雪のごとく凛と角立つメレンゲ。色よく焼き上がった生地に手際よく乗せられていくクリームや鮮色のソース、端正にカットされたフルーツたち。パティシエの熟練した手つきにより、洋菓子に色とりどりの命が吹き込まれていく。

 見目麗しく、美味しいフランス菓子を求めて、店の前には客が長蛇の列を作っている。しかし最後の客を見送った後、主人公の白井葵(蓮佛美沙子)は深いため息をついて、つぶやく。

「終わりか……」

 「パティスリー ベル・ブランシュ」閉店の日から始まった夜ドラ、「バニラな毎日」(NHK総合)の「第1夜」。冒頭3分から物語の世界に引き込まれる。これは、甘いお菓子のお話でありながら、人生の苦味を描く「スイーツ・ヒューマンドラマ」だ。

 主人公の白井は、夢だった自分のパティスリーを開店して5年。しかし経営は赤字続きで、苦渋の決断の末、店を閉めることに。手元には400万円の借金が残った。退去に伴い原状復帰するにも150万円かかるといい、白井は居抜きで借りてくれる人が見つかるのを待ちながら、借金返済のためにバイトを掛け持ちする日々だ。

 たとえば朝ドラでは、主人公が「夢を叶えるまで」のエピソードに力点が置かれることが多い。しかし夜ドラでは、経営の維持に挫折した三十代半ばの主人公の葛藤を描きながら、「夢は叶えた後が大変」というテーマに取り組むのが面白い。ちなみに、「ヒロインがパティシエになって自分の店を持つまで」が見せ場であった朝ドラ「まれ」(NHK総合/2015年前期)で演出を担当していた一木正恵氏が、この「バニラな毎日」のチーフ演出をつとめている。

 そんな「人生詰んだ」白井にある日、料理研究家を名乗る「謎の大阪のおばちゃん」佐渡谷真奈美(永作博美)が声をかける。空いている厨房を「お菓子教室」として貸してもらえないかというのだ。生徒となるのは、複雑化した現代社会の中で様々な悩みを抱える人たち。授業は佐渡谷と生徒のマンツーマンでおこなうという。

 「崖っぷちパティシエ」の張り詰めた日々のはざまで、折に触れ白井の感情がほころんで、生々しい人間の顔が見える。この繊細な芝居を、主演の蓮佛美沙子が見事に表現している。菓子作りで手元が映るシーンでは絶対に吹き替えを使いたくないと、蓮佛は自ら製菓作業の猛特訓を志願したのだという。その甲斐あって実現したリアリティが胸に迫る。

 白井の日常に風穴を開けにやってくる、佐渡谷を演じる永作博美が醸し出す「つかみどころのなさ」も効いている。名優ふたりのやりとりが生み出す、一風変わったシスターフッドが楽しい。

2025.02.07(金)
文=佐野華英