木戸大聖や土居志央梨…週替わりゲストの生き様と菓子製作の映像美が見どころ

 初めは場所の貸主として「お菓子教室」に立ち会うだけの白井だったが、徐々に佐渡谷の不思議なパワーに巻き込まれ、佐渡谷とともに生徒に菓子作りを教えることになる。全8週のうち、2月6日の放送で3週までを終えた本作。週ごとのゲスト俳優が演じる、悩める生徒たちの生き様が粒立つ作劇と、彼らに課題として提案される洋菓子の製作過程の映像美が見どころだ。

 そして何より、目下悩みのど真ん中にいる白井が、それぞれの生徒、それぞれの菓子と向き合う中でいろんなものを受け取っていく姿が、観る者の心を掴んで離さない。

 時おり回想として挟まれる白井の来し方が、物語に深い陰影を与えている。白井はおそらく幼少期に、何らかのかたちで母親(谷村美月)に捨てられ、母から言われた「あなたに私は必要ないのかもね」という言葉がトラウマになっているようだ。母の言ったとおり、大人になっても何でもひとりで抱え込む性格で、こだわりが強く融通が利かない白井。他者との関わりを避け、自分で自分を追い詰めて、がんじがらめになっていた。それが店の経営がうまくいかなかった一因でもありそうだ。

 そんな白井が、「臨機応変」と「適度なゆるさ」が信条の佐渡谷流「お菓子教室」からさまざまな影響を受けながら、新たな自分を発見していく。たったひとりで店を切り盛りし、たったひとりで菓子と向き合う。それだけのために生きてきた白井が、佐渡谷や生徒たちという「他者の視点」にふれることで、少しずつ変わっていく。

 第1週(第1~4夜)の生徒は、東大卒で経産省でのキャリアもあるエリートの順子(土居志央梨)。失敗を恐れ、他者からの評価に振り回されすぎて心を病んだ順子に提案されたのは、「生地を仕込むのを忘れて後から乗っけて焼いた」という失敗から生まれたタルトタタン。この菓子から、順子だけでなく白井も、いろんな形のリカバリーがあること、発想の転換が前に進むヒントになることを学ぶ。

 第2週(第5~8夜)で登場した大人気ロックバンド「PINKDOGS」のヴォーカル・秋山(木戸大聖)には佐渡谷から、手軽に作れる家庭菓子のチョコレートブラウニーが提案される。しかし秋山は高級菓子のオペラが作りたいという。そこで白井はブラウニーとオペラの間をとったザッハトルテを秋山に提案する。互いにどこか似たところのある秋山と白井は、「何事も0/100で考えるから自分を追い詰めてしまう」「両極のどちらでもない“サードプレイス”が人生を助けることがある」という気づきを得る。

2025.02.07(金)
文=佐野華英