「お菓子の処方箋」で解きほぐす人の心

 第3週(第9~12夜)の生徒は、母子癒着と母親の過干渉に苦しめられてきた優美(伊藤修子)。母が亡くなる直前に自分に助けを求めて電話をかけてきたのに、無視してしまったことを悔い続けている。白井は、優美の母が大好きだったモンブランと優美が大好きなチーズケーキを合体させた「モンブラン・フロマージュ」を提案する。

 優美は作りながら、母と自分の関係を回顧していく。出来上がった菓子を食べる優美の中に、恩讐、愛憎、共依存と開放感……相反するいくつもの感情が湧き上がる。それでいいのだ。人はいくつもの顔を持ち、幾重もの感情を抱えて生きている。

 「モンブラン・フロマージュ」を前に、白井は優美の母の気持ちに思いを馳せる。ひきこもりだった優美が母親からの電話に出られないほどに、一緒に何かに夢中になれる仲間ができたことが、優美の母は「うれしいと思います」と白井は言う。この気づきはやがて、白井自身の母娘関係にもフィードバックされそうだ。

 このドラマでは、生徒たちと、彼らに“処方”される菓子、そして佐渡谷の言葉を通じて「人は見かけだけではわからない」「いいか悪いか、どちらかに決める必要などない」というメッセージが繰り返し発されている。白井と一緒に視聴者も少しずつそのことに気づかされていく。光を当てる方向を変えれば、物事の見方は違ってくる。白井がどん詰まりだと思っているこの時期は、見方を変えれば「次のステップに進む前の小休止」なのかもしれない。

 「お菓子の処方箋」は、ほんの小さな魔法だ。それを摂取したことで、一瞬でも笑顔になれる。少しだけ気持ちがほぐれる。目線を変えるきっかけになる。つまり、こうした小さな成功体験の積み重ねが大切なのだ。関わりあう複数の人間の思いが、少しずつ作用しあって、何かが変わっていく。そんな「小さな魔法」の連続のおかげで、私たちは生きていけるのかもしれない。

夜ドラ「バニラな毎日」

NHK(総合)毎週月~木 よる10時45分から放送
各話15分 (全32話/8週)
https://www.nhk.jp/p/ts/16GKWR9729/

2025.02.07(金)
文=佐野華英