この記事の連載
「それなら私が主導権を握ったほうがいい」
――さまざまなテーマに沿って、当事者や取材者の女性たちが集まって本音を語る『Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~』(Abema/2017年~2021年)ではプロデューサーを務められています。これは津田さんが企画から立ち上げられたんですか?
『Wの悲喜劇』は、普段から業界の愚痴を聞いてくれていた元テレ朝の男性プロデューサーが声をかけてくれて、女性の放送作家さんや女性向けサイトの編集長と共同で立ち上げた番組でした。
あれは基本的に女性スタッフで作っていたので、話が早かったです。それでも、始めたときは周囲の男性から「女の問題って、そんなにテーマないだろ」「ネタ切れになって続かないよ」とか言われました。でも第100回まで放送してますからね。
――性教育や地方移住、整形、資産形成、婚活、発達障害などなど、扱うテーマがすごく幅広いですよね。ネタ出しはどうされていたんですか?
スタッフで話し合っていると、自然と出てきましたよ。女の人って問題意識が高いから。普段の会話でも、女性のADから「私、抜け毛がひどいんです。毛の話をやってほしいです」って言われたり、男性の技術さんが「不妊治療で妻が悩んでいて、僕はどうしたらいいかわからなくて」と話してくれたり、そういうところからもどんどん企画にしてました。
テーマはいっぱいあるんです。男性が知らないだけで。彼らは、自分たちが知らないことがあるとは思ってないんですよね。
――「女性向けの番組を作りたい」と思うようになったのはいつ頃からなんでしょうか。
いや、「女性向けの番組を作りたい」って思ったことなんかないですよ。普通に「番組を作りたい」と思っていただけで。だけど、もしかしたら女性じゃないと作れない番組があるんじゃないかなとは思ってました。
「女性向けの番組を作って」って言われて始めても、いつもおじさんに「これは違うんじゃない?」とか茶々を入れられて変なふうにされるわけですよ。「女向けの番組を女に作れと言ったくせに、なんでおじさんが文句言ってくるの?」って話じゃないですか。
――出版業界でも似たようなことはあります。
あるでしょう。それなら私が主導権を握って作ったほうがいいのではないかと思った、というのが正直なところですね。私みたいな人間が入らないと、女性の意見がちょっと捻じ曲がった形で伝わってしまうのではないか、って。そういう気持ちはすごくあります。
――これから作ってみたいのはどんな番組ですか?
『Wの悲喜劇』をやっていたとき、視聴者の7割が男性だったんですよ。男性を批判するような番組は男性のほうが観るんです。Abemaの番組にはコメント欄があって、リアルタイムで視聴者の感想を見られるから放送中にチェックしてると、ケチをつけたくて観ているような人が多くって。
――意外です。女性の視聴者が共感しながら観ているのかと思っていました。
もちろんそういう人もいますよ。だけど、そこで共感できるくらい意識が高ければ、番組を観るまでもなくそのテーマについて知っていたり興味があったりしますよね。本当にメッセージを届けたいのは、観てくれていない人のほうだと思いました。
たとえばジェンダーの問題についてだったら、わざわざケチをつけに来る人は差別的な自分に自覚があるんですよ。だからある意味ではまだマシ。それより、そこに対する意識も関心もない男性のほうが、何が問題なのかわかっていないわけですよね。だからマイクロアグレッション(編注:無自覚の差別行為)的なことをしてしまう。
そういう人たちに「なんか俺、ちょっと間違ってたかも」って思ってほしいんです。女性に関しても同じで、問題に気づいていない人にこそ観てほしかった。
――自分がされていることが差別やハラスメントであると自覚していない人、ということですね。
そうです、そうです。『Wの悲喜劇』をやっていて、そこはいちばん思いましたね。一生懸命、ストレートに「こういうことがあります」って言っても伝わらない。そこは番組の作り方を変えないといけないんだな、と。そういう人たちにも刺さるコンテンツをどうしたら作れるかを考えたいと思ってます。そこはメディアの人間として、もう少しやらないといけないことですね。
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津田 環
テレビマンユニオン所属。AbemaTVNewsチャンネル「Wの悲喜劇」プロデューサー。「オオカミくんには騙されない」初代プロデューサー、「世界ウルルン滞在記」など海外取材の制作も多数。
Column
テレビマンって呼ばないで
配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。
2024.11.07(木)
文=斎藤 岬
写真=杉山拓也